教育とは~なぜ勉強するのか
日本人の識字率は99%を超え、ほとんどの人が高校へ進学し、50%以上が大学に進学します。 「ゆとり教育で世界ランクが落ちた」などとも言いますが、それでもなお日本人の学力は世界でトップクラスです。 しかし、教育とは何かについて考えたことはあるでしょうか。
学校の教員はあまり教育について深く考えていないように思います。 また、児童や生徒も「教育とは何か」「なぜ勉強するのか」を教えられていません。 高校時代の私は自分なりに考えて「学歴という肩書を手に入れるため」と思い込んで勉強しましたが、 「教育の本質」ではないと思います。
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教育の目的
教育基本法5条2項には教育の目的についてこのように定められています。
「義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。」
「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い」というところが重要ポイントですね。 国語や算数(数学)、理科、社会などはそれぞれ個々人の興味関心を誘い、国語をきわめて小説家になったり、 数学をきわめて金融業に携わったり、理科をきわめて科学者になったり、社会をきわめて政治家になったりするわけです。
しかし、ここで言われているのはあくまで「自立的に生きる基礎」であり、「働くため」ではないことに注目するべきです。 「労働のため」「勤労のため」とは一切書かれていません。教育の目的はお金稼ぎではないということです。
また、学校教育法21条では教育の目標としてこのように規定されています。
- 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
- 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
- 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
- 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
- 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
- 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
- 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
- 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
- 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
- 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
あくまでも勤労は教育の目標の1つにすぎないということです。 よく学校では「社会に出る準備として勉強するのだ」といわれます。たいてい「働く準備」という意味で言われますが、 それは間違いだということですね。
というのも、もしプログラマーとして生きるのであれば、情報処理を学べばいいはずです。 あえて古文や漢文、全微分や偏微分、化学方程式やローマ史に時間を割かなくてもいいのではないでしょうか。 生徒から「数学なんて仕事に使わないじゃん」なんて疑問が出るのも当然です。 それでも学校教育ではまんべんなく基礎的な教養を身につけさせます。なぜでしょうか。
教育の本質
教育の本質とはなんでしょうか。
ここではまず人間の本質について、デカルトが「方法序説」の中で述べた命題「我思う、ゆえに我あり」が考えるのに役立ちます。 「方法的懐疑」という考え方によって、あらゆるものを疑っていくわけですね。 最終的に疑う余地のない絶対確実な存在が、「考える自分」であったというものです。
デカルトの考え方では、とにかく物事を抽象化していきます。目に見えているものは幻かもしれない、 それは人間の本質ではないかもしれないと。デカルトは、人間の本質は「考えること」だと言ったわけです。
私もその通りだと思います。人間と他の生物の違いは、「言葉が話せる」「道具が使える」「火を使える」 などとよく言われますが、それはまだ本質をついたものではありません。 他の動物も語彙は少ないもののコミュニケーションをとっていますし、カラスは木の枝を使って虫をほじくったりします。 もしも電気ウナギが火を起こせるようになったとして、今のような文明をおこせるでしょうか。
最終的に人間が人間である理由は、考えることに帰結すると思います。 「思考力」がほかの生物と比較にならないほど発達しているからこその人間なのです。
思考力がなければ「コミュニケーション」について深く考えて、「言葉を増やそう」とはしません。 「道具をもっと便利に改造しよう」とも思いませんし、「火をつかって鉄を変形させよう」とも思いません。 人間がここまで文明を発達させられたのは、思考力のおかげだと思います。
教育とは、思考力を鍛える一手段なのではないでしょうか。
国語や算数(数学)、理科、社会などの「考えるためのツール」を使って、思考力を鍛えるのが教育なのではないでしょうか。 様々な科目を学ぶことで、様々な視点から世界を見渡し、「考えること」が教育の本質だと思います。
その意味では、「詰め込み教育」は確かに誤りです。ただやみくもに暗記することは教育の本質ではありません。 使わない知識をただ蓄えても、意味がないからです。「その知識をつかってどう考えるか」が本質だとしたら、 暗記することよりも「考えさせる時間」が重視されるはずです。それが「ゆとり教育」なのです。
ゆとり教育では「総合的な学習の時間」が創設され、「主体的に考える力」を目的としていました。 私は「ゆとり教育」の理念はすばらしいものだと思っています。教育の本質を考え、 ただ世界ランクだけを気にした詰め込み教育から脱出し、子どもに思考力をつけようとしたのです。
しかし残念ながら現場の教員はこれを理解せず、総合的な学習の時間の使い方がわからず、 遅れている授業の補てんに使ったり、合唱の時間に使ったり(私の中学校です)、目的である「考える力」とは程遠い使われ方をしました。 結果、世界ランクの低下ばかりが叫ばれ、総合的な学習の時間は削減され、元の詰め込み教育に戻ろうとしています。 これは残念なことです。
学校ではサラリーマン教育が行われている
学校では残念ながら「思考力」ではなく「サラリーマンになるための教育」が行われています。 考えてもみれば、学校と会社は共通点が多すぎます。
まず、児童や生徒は毎日朝8時半までに登校します。遅刻は怒られますし、とにかく決められた時間までに席についていなければなりません。 会社も全く同じですね。
そして、決められた制服があります。自分の意思で決めた服ではなく、学校が決めた服装です。 会社ではスーツや会社の作業着を着ます。会社で決められた服装です。
休み時間は決められており、毎日同じ時刻、同じ時間だけ拘束されます。 終業時刻は毎日決まっていて、児童や生徒の意思は関係ありません。授業も事前に学校が計画したとおりに行われ、 どの授業を受けるか、なんの勉強をしたいかは児童や生徒の意思が関係しません。
会社員も同じですね。9時から17時までは確実に拘束され、何をしたいかは関係なく、 上から降ってきた仕事をするわけです。
体育なんかは特に軍隊を彷彿とさせる授業です。整列や集団行動から授業が始まります。 「前へならえ!」「右向け右!」などですね。軍隊以外の何に使うんでしょうかねこれ。 「スポーツを楽しむ」なんて考えはさらさらなく、ただ教員の「命令」に「服従」して運動します。
「持久走」「マラソン」なんかではとにかく「気合と根性」で、成績も「頑張った人」ではなく「結果を出した人」に与えられます。 まさに「勝てなきゃ意味がない軍隊」の教育だと思います。 会社もそういうところがありますよね。上司の命令には絶対服従、「気合と根性」と言われる割には、結果が出せないと昇給はしません。
確かにこれらの教育は、会社に所属して働く分には訓練になります。 しかし、それ以外の生き方、例えば起業して経営者になるとか、投資をして稼ぐとか、 フリーランスとして働くといった場合には学校教育が全く役に立たないことがわかります。
起業をして成功した人は大学を中退した人が多いです。アップル社のスティーブ・ジョブス、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、 マイクロソフトのビル・ゲイツ、ライブドアのホリエモンがそうですね。 ホリエモンは特に「肩書のために大学にいくなら東大以外行く意味がない」とまで言っています。その通りだと思います。 (残念ながら私は東大ではありませんが・・・)
こうなるのも当然です。学校の教員は雇われたサラリーマンだからです。 サラリーマンが自信をもって教えられるのは、サラリーマンとしての生き方だけです。 サラリーマンになるならともかく、そうでない人にとって今の学校教育は意味がないのです。
「お金を稼ぐための知識」「やりたい仕事をやる知識」なら、学校で教わる必要はありません。 本屋さんで関連する書籍を買って、自分で勉強すればよいのです。先行者を訪ねて教えを受けてもいいわけです。 学校では起業も、確定申告も教えてもらえません。ただサラリーマンとして雇われるのに便利な知識だけを教えてくれます。
今後の教育のあるべき姿
インターネットの発展に伴い目まぐるしく変わっていく世界の中で、終身雇用を前提としたサラリーマンとしての生き方だけでは、 通用しません。会社はいつ倒産するかわかりませんし、今は栄華を誇っていても、 明日にはベンチャー企業に顧客をごっそりもっていかれてしまうかもしれません。携帯電話市場や家電市場のように。
学校ではサラリーマン以外の生き方も教えるべきです。学校教員は中途採用や非常勤講師の比率を増やして、 起業家や投資家、自営業者など様々な生き方をしている人を呼び、児童や生徒にいろんな選択肢を与えるべきです。
そして、人間の本質・教育の本質に立ち返り、無意味な暗記にこだわらず「思考力」を鍛えるべきです。 それぞれの科目は基礎的な教養にすぎず、それだけで何かを為しうるものではありませんが、 思考力はどの生き方でも役立つからです。
政府がいくら起業家を増やそうと政策を打ち出しても、学校でサラリーマン教育をしている限り、 「先生の言うことを聞かない悪い子」しか起業家になりません。 「先生の言うことを聞く良い子」はみんなサラリーマンになってしまうからです。 というか、言うことを聞くように教育されているのだから、仕方がありませんね。
裁判員制度のように、いろんな大人を学校に呼んで「生き様」を語ってもらってはどうでしょうか。
勉強に終わりはない
「卒業したら勉強しなくていい」というのは間違いです。 確かに卒業すれば、学校教育は終わりです。国語や数学、理科、社会をまんべんなく勉強する必要はありません。 しかし、教育の本質に立ち返ってみれば、思考力を鍛えることには終わりがありません。
起業家は勉強家です。多くの名経営者は古典を読んでいます。 「孫子」や戦国武将の兵法書は特に人気です。それだけではありません。ビジネス書や小説などを多数読み、 自身の教養として蓄えているのです。
なぜでしょうか。一見、戦争の本など特にビジネスには関係がないような気がしますが、 実は書籍の表面を読んでいるのではありません。書かれていることを抽象化し、一般原則としてビジネスに当てはめているのです。 つまり、あらゆる書籍が考える材料というわけです。
もちろん書籍だけではありません。経営者は積極的にいろんな人と会っています。経営者は友達がめちゃくちゃ多いです。
私の大学には「ベンチャービジネス創生」という講義があり、教授が様々な業界の経営者を連れてきて、講義をさせるものでした。 (ホリエモンも来る予定でしたが、有罪判決が出て流れてしまいました・・・) どこで出会ったのかというくらい、高級キャバクラのオーナーだったり、JCOMの社長だったり、いろんなお友達を連れてきてくれました。
書籍やお友達には共通点があります。それは、他人の生き様を知れることです。 この意味では、お友達をたくさんつくることも勉強の一つなのです。 勉強は学校の授業だけではありません。あらゆる体験、あらゆる知識が勉強なのです。
一度、教育の本質に立ち返り、思考力を鍛えていきましょう。
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著者:村田 泰基(むらた やすき)
合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。
その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、8年間に渡り学生の就職活動を支援している。
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