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「お客様は神様」じゃない!

 クレーマーの大好きなセリフ「お客様は神様だろ!」ですが、今回はこの「お客様は神様」論がいかに間違っているか、 いかに社会に害悪となっているかを解説したいと思います。 実はお客様は神様でもなんでもありませんし、もしお客様が神様だとしたらお店も神様です。



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「お金を払う方がエライ」の間違い

 「俺は客だぞ!」と怒り出す人たちがいます。「お客様は神様だから丁重に扱え」と言いたいわけです。

 なぜお客様が神様なのか問うと、「お金を払っている方がエライんだ」と答えるでしょう。 まあ確かにお金を払ってもらわないとお店は営業できませんし・・・いや待ってください。なんでお客はお金を払うんでしょうか?

 お客がお店にお金を払う。お店はモノをお客に渡す。これが取引です。 お店はお金をもらう代わりにモノを渡しているのになぜエラそうにされなければならないんだ?

 お店はお金をもらわないと営業が続けられない。一方でお客はモノを売ってもらえなければ生きていけないはずです。

 客は店を選べると言いますが、逆も然りです。お店はクレーマー1人がモノを買ってくれなくなっても大した影響はありません。 それが薄利多売の強みです。クレーマーがうっとおしいので出入り禁止にして、モノを売らなくなったらどうなるでしょうか。

 他のお店にも次々にモノを売ることを拒否されると、お金を持っていてもモノが買えなくなります。 クレーマーは飢え死にするか、お店に土下座しておにぎりを売ってもらうかしなければなりません。 ほんとうに力があるのはお客ではなくお店ですね。

 だからといってお客はお店にヘコヘコしろとまで言うつもりはありません。取引は対等です。 同じ価値を交換しているだけですから、お店は「買ってくれてありがとう」お客は「売ってくれてありがとう」 これが本来あるべき姿です。

 お金を払っている方がエライ?お金の代わりにモノをもらったんじゃないの?というわけです。

 「お客様は神様」という言葉を使ったのは三波春夫が有名ですが、「お客に最高のパフォーマンスを魅せる」 という意味であって「お客を崇め奉る」という意味ではないことも有名です。 しかしこれが勘違いされ、「お客はエライ」と変化していってしまいました。

 クレーマーにとっては残念でしょうが、お金を払っている方がエライなんて根拠はどこにもありません。 お店が「神様神様」とおだてるので、調子に乗ってクレーマーになってしまっただけなのです。

 モノの値段に「ののしる権利代」など入っていませんし、お店が売ってくれなくなったら困るのはお客のほうです。

 

「お客はエライ」の誤解が悪循環を生む

 ここまで「お客様は神様」論が浸透し、「お客はエライ」と思われるようになってしまったのは、 「お店がお客をおだてるから」という側面もあります。

 要はお店にバカにされているのに気付かず、 調子に乗ってしまったのがクレーマーというわけです。

 よっぽど少ない個人、少ない企業にしかモノやサービスを売っていない会社ならともかく、 普通の会社はお客がたくさんいます。お客のうち1人くらい買ってくれなくなったところで大した影響はありません。

 それでも少しでも売上・利益を伸ばしたいお店は、お客をおだてることにしました。

 するとお客は「お客様は神様」と思い込み、いろんなお店で横柄な態度をとります。 勝手に「お金を払っている方がエライ」と何の根拠もなく思い込んでしまうのです。

 しかし、店員は会社の方針には逆らえないため「お客様は神様」論に反論することなく、ただストレスをため込みます。

 今度は店員が「お客様は神様」論を信じるようになります。商品を仕入れるときに、納入業者に横柄な態度をとるのです。 「お金を払っている方がエライんだ!」というわけです。

 こうして下請業者も「お客様は神様」論に巻き込まれていきます。 下請業者は下請業者で、「お客様は神様」論を信じるようになっていきます。

 こうして「物を買うときは横柄な態度をとる」「物を売るときはへりくだる」のが「常識」になっていきます。

 これ、無駄じゃないですかね?横柄な態度をとって気持ちよくなる人ばかりではありませんし、 へりくだるのが嫌だという人は無数にいるはずです。

 一度リセットして「お互いにありがとう」でいいんじゃないですかね。 というかおだてられてるのに気付かないのはなぜでしょうか?

 この悪循環がまた別のところにも影響をします。例えば行政サービス。 よく市役所サービスの悪口を言う人は「民間ならこうなのに!」と言います。

 例えば「『窓口が違う』とたらいまわしにされた」と言いますね。 「民間なら窓口が違っても対応してくれる」というわけです。

 窓口を間違えているのは自分なのに、自分の間違いを市役所がなんとかしろといっているわけです。 まさに自分を「市役所にとってのお客様」だと思っており、「お客様は神様だから市役所は自分のご機嫌をとるべき」という意識が表れています。

 しかしよく考えてみましょう。市役所にとって住民はお客様ではありません。住民が住民票を取りに来て手数料を払っても、市役所は儲かりません。 極端に言えば住民票を取りに来ないほうが手間がかからないので楽でいいですね。

 別に住民にへりくだって「住民は神様ですからぜひ住民票を取りまくってください!!」だなんていう必要は全くないのです。 市役所は住民票を発行しなくても1円も損をしません。困るのは住民のほうです。

 「お金を払う方がエライ」と勘違いした人たちが、無関係なところにもそのめちゃくちゃな理論を持ち出します。 文句を言われる担当者にはストレスがかかりますし、その担当者をまたどこかで横柄な態度をとることで、 他の人にストレスが転嫁されていくのです。

 「お金を払う方がエライ」なんて幻想はただちに捨てるべきです。

 

「サービス」は「無料」ではない!

 なぜ店員に対して横柄な態度をとることが何の疑問も無く定着してしまうのでしょうか。 考えてみれば店員に対してエラそうにできる根拠なんてどこにもありません。

 「俺の払った金から店員の給料が出るんだ!」などと言う人が見受けられますが、 逆に店員に言わせれば「俺がレジ打ってやってるから客はモノが手に入るんだ!」です。

 そもそも客1人が払ったお金の大半は仕入原価とお店の維持費に消えます。店員の給料になる分は1%にも満たないでしょう。

 ここには「サービスは無料」という間違った認識があります。 高級ホテルはサービスも一流ですが、値段も一流ですね。

 ビジネスホテルはサービスも値段も中流です。 サービスのいいところは値段も高いですが、値段の安いところはサービスも削っているのです。

 サービスは無料ではありません。サービスは、店員が精神をすり減らして提供するものです。

 ただ店番をして突っ立っているだけで最低時給800円はもらえるのに、 なぜわざわざ精神をすり減らしてまで時給800円でヘコヘコしなければならないのでしょうか。 サービスを求めるなら、それ相応の対価を払わなければなりません。

 しかし横柄な態度をとる客たちは、「横柄料」を余分に払ったりはしません。なぜなら彼らは「サービスは無料だ」と思っているからです。

 「お客様は神様だろ!おにぎりをもう1個タダで寄こせ!」とは言わないのに、「お客様は神様だろ!タダで俺にヘコヘコしろ!」とは言います。 彼らは「モノに対してお金を払う」感覚はあるのですが、「サービスに対してお金を払う」という感覚がないのです。

 「接待を受ける客」というのは法人顧客で、取引量が多く、莫大な売上と利益をもたらしてくれる客です。

 もちろん接待に使う費用はその顧客がモノを購入するときに上乗せされて請求します。 この顧客はモノを買う際にサービス料も払っているのです。

 しかし、コンビニやスーパーで横柄な態度をとる客は「サービス料」という感覚がありません。

 過剰なサービスを求めればいずれお店が店員を雇う際に「サービスの技術」をもった人を雇わなければならなくなり、 その分人件費が上がり、モノの値段自体が上がってしまうことに気付いていません。

 そもそも無料サービスを求めるのは「タダでおにぎりを寄こせ!」と言うのと同じです。 サービスを受けたければ、それ相応のお金を払うか、もっと値段の高いお店に行きましょう。

 

クレーマーに対応する必要はない

 そもそも「お客様は神様だろ!」などと言い出すクレーマー対応する必要はあるのでしょうか?

 会社は会社が悪くなくても謝って穏便に済ませようとしますし、謝らなければ店員に処分しようとします。 その対応がそもそも間違っているのではないでしょうか。

 短期的な観点では、確かにそのクレーマーはお店に売上と利益をもたらします。その瞬間、クレームをつけながらもモノを買ってくれるわけです。 会社は会社で変な口コミを流されても嫌なのでその場を穏便に済ませようとします。

 しかし、そういうクレーマーは「謝らせた」という優越感にハマり、その後もクレームをつけます。

 同じ人が何度もクレームをつけるのはよくある話です。変な口コミだってTwitterでつぶやいたりして、どうせ流されます。 これを長期的な観点でみると、会社と店員にストレスを与え続ける悪い客になっていくわけです。

 これを「金になるからいい」と軽く考えているようでは、その経営者もやはり「サービスは無料だ」と考えていると言わざるを得ません。 本来かからないはずのストレスがかかるわけですから、店員は嫌がります。

 その業界で働く意欲が失せて、労働者が集まらなくなります。 結果、高い時給を出さなければ店員がそろわない事態に陥ります。

 過剰なサービスがストレスを生みだし、店員は突然辞め、代わりの店員も見つかりません。

 結果として人件費は増大し、利益を圧迫するわけです。単に店員に「我慢しろ」というだけでは何の解決にもならないどころか、 「お客様は神様」という悪しき風習を定着させてしまうことで、会社に返ってくるのです。

 「へりくだる」という無料サービスを求めるクレーマーには、断固として「うちはそんなサービスはやっていません」と拒絶するべきです。

 それでも無料サービスを求めてくるようなら「もう取引しない。うちの店に来ないでくれ。」くらい言えないと、 最終的には自分の会社が損をするのです。

 クレーマーにはなんの理論も説得も効きません。「お客様は神様」だと思い込んでいるのですから、 痛い目に遭ってもらわないと意識は改善されないでしょう。

 クレーマーの無理難題につきあう必要も、へりくだる必要もありません。 健全な経済社会の発展のため、悪質なクレーマーとは取引を拒絶しましょう。

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著者:村田 泰基(むらた やすき)
 合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。 その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、11年間に渡り学生の就職活動を支援している。 →Xのアカウントページ