最近の若者はなぜ「うつ病」になるのか
「うつ病は甘え」「うつ病はクズ」などと吐き捨てるのは簡単ですが、問題は簡単なことではありません。 「なぜ若者がうつ病になるのか」という点にフォーカスして、その原因と対策を解説しています。
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うつ病になる原因
筆者である私も入社4年目でうつ病を発症し、1年半に渡る「休職」と「復職訓練」を繰り返したのち、「休職期間満了退職」となりました。 私の思い当たる原因と、医師から言われた原因をまとめると、うつ病になる原因は以下の通りです。
原因1:責任感が強く、頑張りすぎた
自分で言うのもなんですが、私は「責任感」が強く、「頑張りすぎる」タイプです。 サラリーマン時代は朝の5時に家を出て、外回りの営業をして、 夜19時に会社に戻って事務作業、そして0時に会社を出るという生活を繰り返していました。
仕事の話をすると、私が顧客の要望を聞き、他部署で作成された見積書と図面を渡し、 契約が成立すればあとは私から設計部にバトンタッチします。 このように、「会社の制度上」は役割分担ができる仕組みになっていました。
ところが見積部門にはミスがあまりにも多く、上長の決裁印が押されているにも関わらず平気で見積金額の10~20%に影響するミスを放置します。 図面も間違っていることが多く、再三ミス防止をするように要請するのですが、なおりません。
間違った見積書のまま提出すれば、後で謝らなければならないのは営業マンの私です。 また間違った見積書のせいで契約に至らなかったら、ノルマを達成できないのは私です。 結局困るのは私なので、自分でやることにしました。
そして、仕事を引き継いだはずの設計部や工事部は、お客さんと会話をすることを極端に嫌がります。 「お客さんとしゃべるのは営業の仕事だ」と言わんばかりに、打ち合わせにもいかず、電話も塩対応で、 要望の話があれば内容も聞かず「営業と話して」と言い放ちます。
そういう対応ですから、お客さんはすべての話について私に電話をかけてきます。 「ここの納まりのディテールなんだけど」「工事のクレーンって何台必要でどこを通るの?」「作業員は最大何人来るの?」 ・・・知らねえよ!
ですが、私まで塩対応をしてはお客さんは困ってしまいます。さらにせっかく私が開拓した顧客なのに、 リピーターになってくれなくなります。設計部や工事部にはそんな私の苦悩がわからんのです。 そこで、自分で設計や工事を勉強しました。
私は法学部卒の文系で、事務系で、営業マンですが、CADで図面もかけますし工事の工程表もつくれます。 工事計画もできますし、見積部門が出してきた鋼材重量から余分な重量を差し引くこともできます。 責任感が強いばかりに、わりとなんでもできるようになってしまったのです。
しかし、これらは営業マンの仕事ではありません。私の仕事は「新規顧客の開拓」や「新規案件の対応」そして「契約」です。 日中に営業マンとして外を飛び回りながら仕事をし、夜に見積部門や設計部門、工事部門の仕事をします。 これでお客さんから怒られることも減り、残業代のがっぽり入っていたのでそれなりに満足していました。
ところが事件はある日突然にやってきます。
「設計部が公的機関に提出する書類を間違えた」とかで、新規開拓したお客さんから猛烈なクレームの電話が入ります。 工事の計画がやり直しになってしまったので激怒しています。即座に謝罪に行くのですが、遠方のお客さんだったので着いたころにはもう夜。 それから机をバンバン叩きながら怒鳴られ、終わったらもう深夜。
聞けば「一度提出して間違いを指摘されて差し戻されたのに、また同じ書類を提出した」というお粗末な話で、 設計部の対応が非常に悪く、「そもそもこの案件は審査に通らない」みたいな適当なことを言い出す始末。 そりゃお客さんも激怒するわ。
「いくら勉強してお客さんを開拓しても、社内がこんな感じでは意味がない…」 明らかにこの日から体調がおかしくなっていきました。
原因2:入社直後から結果を求められる
今時は新入社員でも、入社直後から結果を求められます。
とはいえ右も左もわからない新入社員に責任ある仕事はさせられませんから、 私の教育係の方針では、1年目はミスがあっても教育係がカバーできる範囲の仕事だけやることになっていました。
しかし、隣の部署の課長が異を唱えます。 「お前は会社のために何も売上を上げていない」「お前はただの一般管理費だ」
!?!?!?それ、ぼくに言うの!??!?!?!?!
私にそうするように指示しているのは教育係であって、その教育係にそう指示しているのは私の部署の課長です。 それをなんの指揮命令系統にもかかわっていない隣の課長が、なんの決定権限もない私に苦言を呈するのです。 なぜなら、私の部署の課長は、隣の課長より年上で来年の部長候補なので直接文句が言えないのです。
というようなことがたくさんありました。あらゆる部署の課長が、私の部署の課長に文句が言えず、 そのストレスを新入社員の私にぶつけてくるのです。
バブル前に入社した部長の「ありがたいお話」によれば、昔の新入社員の仕事は「棚から資料を探すこと」だったそうです。 (このお説教の趣旨は「お前らは資料を探して読む経験がないからダメだ」ということだったのですが…) しかし、今時そんな仕事はありません。パソコンでワンクリックで出てくるからです。
パソコンやメールがなかった時代に比べて「資料探し」や「書類の配達」といった簡単な仕事はなくなり、 新入社員でもいきなり見積もりや分析など高度な仕事をさせられ、高度な仕事をする分「結果」も求められます。
そして、昔は1日で1つの仕事をしていたのも、パソコンやメールの登場で短時間で終わるようになり、 「終わったの?じゃあ2つやれ」と言われるのが会社です。
年配の社員にとっては入社してだんだん仕事が高度化していきました。 最初は「資料探し」から始まり、「1つの仕事」に慣れたころにパソコンが導入され、仕事量が増えていきました。 「仕事の大変さ」の上昇具合が「なだらか」だったのです。
ところが今の新入社員は、入社していきなり「高度な仕事」を「2つも3つも」させられます。 そして結果も求められるのですから、「仕事の大変さ」の上昇具合が「急激」です。
40年間のマラソンをするのに、スタートダッシュでいきなりスパートをかけさせられているのですから、 体力が切れてうつ病になるのも納得できます。
「うつ病」は甘えではない!症状がヤバイ
結局「うつ病」が治らず退職して、好きな個人事業や不動産投資でネオニート生活を送っている私ですが、 辞めても治っていません。そして、そもそも私がうつ病になるなどと思っていませんでした。 むしろ自分がうつ病になる前は、「やる気がない」が病気認定されるなんて気楽だな~くらいに思っていました。
その私が断言します。うつ病は甘えではありません。
私のうつ病は、「頭が重い」「腕がしびれる」というところから始まりました。 あまり睡眠時間も取れていませんでしたし、食事もまともにとっていませんでした。 「風邪」的な病気にかかったのかと思い、パブロンゴールドなどを飲んで仕事を続けていました。
すると、だんだん症状が悪化してきます。「脳が崩れるような感覚」「目の焦点がチカチカして文字が読めない」 「夜も眠れない」「常時めまい」という状況になり、やる気が出ないとかそんなレベルではなく、仕事ができなくなってしまったので、 病院に行きました。
「自律神経の問題かもしれない」と言われ、大学病院に紹介状を書いてもらったのですが、予約は1ヶ月先。 「そんなに待ってる余裕はない!『今』仕事ができなくて困ってるんだ!」と、 睡眠導入剤を処方してもらって、「夜も眠れない」問題だけ対処して対応します。
以前ほどパフォーマンスが出なくなってしまい、調子が悪ければ事務作業を土曜日に回すようにして仕事を続けていました。 「眠れない」以外の問題は何も解決していません。毎日謎の症状と戦いながら、頭を抱えながら仕事をしていました。 それでも「電車で居眠りするときに首の神経をやっちゃったのかな」などと思っていました。
そして初診から2ヶ月もたってようやくCTとMRIの検査を経て、神経系にも血管にもなんら異常がなく、 「うつ病」だと判定されました。
私はうつ病のことを単なる「気分」の問題だと思っていたので驚きました。 発病する前は「気合でなんとかなるだろう!」などと思っていましたが、なんとかなるものではありませんでした。
その診断を受けて、長い休職期間に突入しました。本当は不動産投資で不利になるので、 仕事を続けて「給与所得500万円」を維持したかったですし、会社のビジネスモデル自体が好きで、 これで天下をとってやろう!と思っていたので、休職は本意ではありませんでした。
ですが、文字が読めなくて毎日脳が崩れているのに仕事がしたくてもできないのですから、仕方がありません。
休職中は「完全にバッテリーが切れた」ように常時ベッドの上で暮らしていたため、記憶がほとんどありません。 2016年の9月から休み、2017年の2月に彼女と別れているのですが、その記憶もありません。 まさに人生の空白期間ができてしまった気分です。
どうやってうつ病を防ぐか~うつ病対策
「うつ病は個人の責任だ」という考え方は根強いです。 私も復職判断の際、課長との間では「復職」で話がついていたのですが、役員面談で難色を示されて、そのまま「休職期間満了退職」になりました。 幸い不労所得を用意しておいたので、「ああ、そうですか」と退職に同意したのですが…
「労働災害」の「ろ」の字も出ませんでしたし、役員が難色を示した以上は「会社都合の解雇」になるはずです。 めんどうなので私は何も言いませんでしたが、どう考えても仕事のストレスで発病しているのですから、 訴えられてもおかしくない話です。
そのような事態を防ぐため、「うつ病」の対策をして、「きっかけ」をつぶしていく必要があります。
対策1:「チーム」の利害を一致させる
私の場合、「仕事はチームでやる」という前提が抜けていました。 しかし、チームでやれと言われても、私は個人に課せられたノルマの達成状況で評価されますから、 ミスの多いものを人任せになんてできるわけがありません。
さらに「お客さんのため」を考えると、自分でやるのが一番安心で、お客さんのためになる状況でした。 「若者の苦言」は年を取った見積部門や設計部門には効きません。 そして彼らにとっては、私が顧客を開拓して仕事を受注するのは、自分の評価に全く関係がありません。
それどころか私が顧客を開拓して仕事を受注するたびに、見積部門や設計部門は仕事が増えて忙しくなります。 営業・見積・設計間で利害が一致していないのです。
公務員について「縦割り行政」だと文句を言う人が多いですが、会社も相当縦割りです。
「仕事はチームでやる」のは当たり前になっていますが、その「評価」はチームになっていません。 チームで仕事をしているのに、評価はチームではなく部門ごとに「個人」をみて行われます。 このような「利害の不一致」が、特に責任感の強い人に重くのしかかります。
私の会社の場合、「お客様満足度」をチームで稼いで、そのポイントが人事考課に加算される仕組みだったら、 このような事態にはならなかったのではないかと思います。
対策2:新入社員にノルマを課さない
上でも述べたように、入社直後からスパートをかけさせられるのは大きな問題です。 「昔に比べてうつ病になる若者が増えた」と思うのであれば、原因は間違いなくそれです。
「昔はもっと残業時間が長かった」と言う人もいますが、それは本質を外しています。 極端な話、「『資料探し』の20時間」より「『ノルマ達成のための営業施策を考える』10時間」のほうが圧倒的にしんどいはずです。
それでも昔ながらの社員は、「だんだん仕事が高度化していった」わけです。 しかし、新入社員にいきなり高度な仕事から始めさせたら、そりゃ病気にもなるわという話です。
新入社員に「ノルマ」での評価がそもそも昔はなかったものですし、「労働時間」での評価などもってのほかです。
「即戦力」を求めるならそもそも新卒採用をするべきではありません。それこそ中途採用で補うべきものです。 新卒採用は学生の将来性にかけるものであり、今日明日の売上高のために採用するのは、根本から間違っています。 新入社員が一人前に稼げたら苦労しません。
私の会社も制度上は、入社後3年間は「人事考課は一定」という裏ルールがありました。 ですが、新入社員に課せられるストレスは会社の制度よりも、業務外の居酒屋での説教大会で発生します。
今と昔では事情が異なるのに、昔の感覚のまま説教する。そんな年配社員の言うことを「真に受けるな」というのも無理な話です。 実はその年配社員が「名ばかり管理職」で発言力も権限も持たないなんてことすら、新入社員にはわかりません。 「部長」や「課長」などの名前がついていて、少なくとも自分よりはエライわけですから、ストレスは直にのしかかります。
「余計なストレスを与えない」ことを全社的に重視するべきでしょう。
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著者:村田 泰基(むらた やすき)
合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。
その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、8年間に渡り学生の就職活動を支援している。
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