給料はなぜ安いのか
サラリーマンとして就職する以上、給料をもらって生活するわけですが、 「給料が安い」という悩みに直面します。 もちろん会社や業界によって給料の金額は異なるわけですが、どこで働いていても「給料が安い」と感じるのは同じです。
例えば銀行や証券会社。銀行や証券会社は給料が高いことで有名ですが、 働いている社員は、そうは思っていません。これは高い離職率からも読み取れます。 特に三大メガバンクや有名証券会社は3年以内離職率が30%にも達し、 5年以内に半数が退職してしまう世界です。「仕事と給料が割に合わない」と感じている証拠です。
一方でメーカーに就職すると、銀行や証券会社のちょうど半分くらいの給料ですから、 「給料が安い」と感じるようです。実は、新卒で就職する限り、 社会は「給料が安い」と感じるようにできているのです。
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日本の給料が安い原因
なぜ日本の給料は安いのでしょうか。その理由を解説していきます。
考えても見れば、給料が安いのは当たり前です。 その原因は「サラリーマン」であることそのものです。
なぜならば、社員が出した成果以上に給料を払っていたら会社は赤字になるからです。
会社の利益とは、売上高から原価と給料を払って残ったお金のことです。 利益が出なければ会社はつぶれますから、会社は利益を出さなければなりません。 ならば社員1人が1000万円の粗利を出したとしても、そのうち40%くらいは利益として会社にもっていかれてしまうのです。
パワーバランス的にも社員より、役員や株主のほうが権力がありますので、 役員や株主が有利なように利益をもっていかれてしまっても仕方がありません。
社員がもらえる給料は「頑張った分」よりずっと低いのです。 それが会社のシステムです。
そう考えると、「まったり高給」なんて幻想だとわかりますね。 頑張った分以上に給料を払う会社はありえないのです。 頑張った分より少ない給料しかもらえないのが当たり前です。
しかし現実には、高い年収を得ながら毎日楽しそうにしているサラリーマンもいます。 家庭を持ち、家や車も持ち、定時で帰り、休日は子どもと遊んでいる・・・そんなサラリーマンはごろごろいます。 彼らは「まったり高給」のように思えます。
会社は高収入サラリーマンに余計に給料を払っているのではありません。 その社員が短時間で大金を稼いでいるのです。もちろん稼いだ分がまるまる社員に入るわけではありません。 高い年収以上に会社に利益をもたらしていることには変わりありません。
それにはアイデアのセンスだったり、投資センスだったり、頭の回転の良さなど、 才能的な能力が必要になってきます。まったりに見えて、実は多大な能力が必要なのです。 決して楽して稼いでいるわけではありません。
ですが、問題はそれだけではありません。日本企業には給料が安く感じる構造上の問題、 給料が上がらない仕組みがあります。
我慢して働く社畜がいるから
給料が安い最大の原因は、実は社畜にあります。 よく訓練された社畜は、ボーナスが下がろうが、給料が下がろうが、昇給がなかろうが、 残業代や休日出勤手当がつかなかろうが文句を言いません。
それどころか「自分の給料を削ってでも会社に利益を出さなければ」という謎の使命感に満ち溢れています。 会社へのサービス精神が旺盛で、ギブアンドテイクが完全に破たんしています。 社畜はギブアンドギブ、会社はテイクアンドテイクです。
皆はそんな意識の高い社畜を「すごいなあ」と生暖かい目で見ていますが、 実はサラリーマンの待遇を悪化させているのはそんな意識の高い社畜なのです。
日本社会では「自分よりも会社が第一」という態度が好まれますが、 意識の高い社畜がいなければ、そんな社会にはなりえません。 誰かが「自分を犠牲にしてでも会社のために!」と働いたために、 「サラリーマンはこうあるべき」という意識が生まれてしまったのです。
経営者にとっては意識の高い社畜は都合がいいですから、重宝します。 他の社員にも同じように、意識の高い社畜になってほしいと思うのです。
いつしか「意識の高い社畜」が当たり前になってしまい、そうでない人にも同じ扱いをするようになります。 給料を削り、サービス残業をさせ、有給休暇は取らせず、延々と働かせるのです。
サラリーマン全員がそれを拒絶して、ブラック企業を辞めれば企業も存続できませんので、 ブラック企業はなくなるはずです。しかし、ブラック企業のために身を粉にして働く意識の高い社畜がいるために、 ブラック企業は生き残り、意識の高い社畜でないと働けない社会になっていくのです。
実は、給料が安いのは社畜のせいだったのです。
過当競争に陥っているから
低賃金で有名な業界と言えば「介護」や「飲食」などの「サービス業」でしょう。 介護福祉サービスや居酒屋、外食チェーン店は給料が安く、 サービス残業やサービス休日出勤が多く、過労死もたびたび起きるほどブラック企業の多い世界です。
薄給激務とはまさにこのことで、このような労働形態に耐えうるのは、体力のある若者です。 「お客様の笑顔を見たい」と夢を抱いてサービス業に就職した若者は、 本部や上司、客からの罵声に苦しみ、激務に苦しみ、薄給に苦しむという三重苦を味わっている人も多いです。
なぜサービス業の給料が安いのかというと、「過当競争」に陥っているからです。 サービス業は、大きな工場は必要ありませんし、IT技術も不要です。難しい国家資格もいりませんし、 莫大な資金が必要なわけでもありません。「人」がいればいいのですから、簡単に始められる事業なのです。 そのため新規参入が相次ぎ、サービス業はライバルが多すぎる状態になっているのです。
客としても、味も品質も変わらないなら、安いほうの店に行きますね。 よっぽど料理のうまい高級レストランなどでない限り、基本的にはサービス業は価格競争になります。
しかし、価格を下げるには限界があります。店の賃料、電気代、設備代、材料費、人件費など、 「最低これだけは売らなければ赤字になる」原価があります。 原価を下回って価格競争をしようものならいずれ倒産してしまいます。
それでも価格を下げないと客が取られてしまいます。そこで、「原価を下げる」手段に出るわけです。 原価を下げるのに一番手っ取り早いのは「給料を下げる」ことです。
給料も低い、仕事は忙しい薄給激務で、もちろん退職する若者もいます。 しかしたいていの場合、次の就職先が見つからないためにブラック企業に残ります。 こうして薄給激務を我慢する社員ばかりが残っていき、 最終的には「お金がなくても夢を食っていけば生きていける」などという雰囲気の会社になってしまうのです。
それが当たり前になると、「給料が安い」と言うのは悪とされ、 ますます給料は下がり、増えることがありません。「給料が安い」のが当たり前の業界になってしまい、 若者は低賃金でこき使われるのです。
他の業界でも同じことが言えます。
「年功序列」という若者冷遇制度
実際に会社に利益をもたらすのは実働部隊である「平社員」です。管理職は直接利益を出すわけではありません。 その分、管理職は会社が儲かるように部下を誘導する義務があるのですが、 どう考えても「役に立っていない管理職」がたくさんいます。
それが「スタッフ部長」や「スタッフ課長」などの名ばかり管理職です。 これらは事実上の「あがり」ポストであり、出世街道を外れた人たちの役職です。 「管理職になれなかった社員への気遣いポスト」であり、「年を取ったご褒美」でもあります。
年を取ったので実働部隊のように利益を出す仕事はしませんが、ライン職ではないため管理職としての仕事もしません。 ですが、「お年寄り」だから管理職並みの給料が支払われます。 完全にお荷物ですが、日本社会には「年を取ったらエライ」という風習があり、この謎制度に手を付けることができません。
会社で偉いのは年配のお年寄りです。お年寄りたちの会議で給料が決まります。 さて、若者は「給料が安い」と文句を言えるでしょうか。 残念ながら、言えません。なぜならお年寄りは人事権も持っているからです。
会社で偉くなろうと思うと、お年寄りに気に入られる必要があります。 気に入られるためには、「給料が安い」などと文句を言っていられません。 給料には目もくれず、バリバリ働き続けることで昇進のチャンスが来ます。
こうして給料を無視して働いた人たちが、次の「お年寄り」になります。 自分は給料を無視して働いてきたわけですから、若者が高い給料をもらうのは「けしからん!」となります。 そのため若者の給料は上がりません。
これが繰り返されて若者の給料は安い状況が常態化し、 「年功序列」なんてもっともらしいネーミングで誤魔化しているのです。
怠け者ほどトクをする賃金制度
日本の賃金制度は、怠け者ほどトクをするようにできています。 日本は「最も成功した社会主義国」とよく言われますが、労働組合の努力の結果、「一斉昇給」「定期昇給」という、 怠け者でも昇給する制度を実現することができました。
今でも労働組合は「ベースアップ」にこだわりますが、これは「全社員が一斉に同じだけ昇給する」ことを意味します。 社員は全員平等で、もらえる給料が全員同じであることが労働組合の「理想」です。 なぜなら、労働組合にとって「無能」ほど保護しなければならない存在だからです。
しかし同時に、頑張っても利益が「ぶら下がり社員」に吸い取られるという問題を引き起こしてしまいました。
日本の労働分配率は60%強と言われますが、大企業に限っては40%程度です。 仮に50%と仮定すると、「1人1000万円の利益」が出せる会社では、年収は500万円になります。
ですが、ここに「ぶら下がり社員」がいるとどうでしょうか。 10人中5人が1000万円の利益を出し、残りの5人が500万円の利益しか出せなかった場合、 利益の総額は7500万円です。このうち50%を10人で分けると、1人あたり年収は375万円になります。
日本の賃金制度では全員が同じだけ頑張ることが前提になっているというわけです。 もちろん人によって仕事への熱意は違いますし、今でも年配の社員ではパソコンが使えない人すらいるくらいです。 そういった「ぶら下がり社員」の保護のために、一生懸命稼いだ利益が吸い取られていくのです。
そんな「怠け者」の分も余計に稼いでようやく昇給が実現されます。 頑張っても報われない賃金制度が「生産性」が低い理由の1つであり、 そして「給料が安い」原因の1つなのです。
一番手っ取り早い「コスト削減」が給料だから
企業は「値下げ合戦」に巻き込まれ、コスト削減による競争力の強化にまい進しています。 中国・韓国におされた家電メーカーが大規模なリストラを実施したのは記憶に新しいですね。
この「コスト削減」において、最も手っ取り早いのが「給料のカット」です。
会社のコストは大きく分けて「材料費」「人件費」の2つです。
ですが、「材料費」の削減は困難を極めます。 部品や消耗品の調達は、相手も企業です。お金を出し渋れば取引を拒否されることもあります。 肝心の材料が手に入らなければ自分が商売になりません。
また「下請け叩き」が問題になって以降、政府の監視の目も強く、あまり圧力をかけることができません。 簡単に値下げには応じてくれないですし、無理に値下げを要求することもできないのです。
一方で「人件費」は簡単に削減できます。 日本社会では転職がまだ一般的でなく、「1社に一生勤め上げる」ことが理想とされています。 このような風潮があるため、社員は我慢してでも働き続けるという奴隷根性がしみついています。
材料費をカットすると商売になりませんが、社員の給料はカットしても商売になるのです。 それどころか不勉強なサラリーマンは自社の決算書すら読めませんので、 経営陣が「不景気で大変なのです」といえば給料カットも簡単に納得してしまいます。
日本企業は長期的視点で経営ができないから
日本企業が長期的な視点で経営を行えないところにも、給料が上がらない原因があります。 上場企業の多くは創業家が経営を退き、サラリーマンが出世して経営者になっています。
会社の「所有」と「経営」の分離はよいことだともてはやされることが多いですが、必ずしもそうではありません。 なぜなら、サラリーマン経営者にとって、会社が儲かっても自分はトクをしないからです。 サラリーマン経営者は数百万円~数千万円分の株式しか持っていません。その株価が2倍になろうと、たいした額にはならないのです。
ですが、経営ミスをすると末代まで「失敗した経営者」として語り継がれてしまいますし、 ひどいときには株主に訴訟まで起こされます。つまり、何もしないのがサラリーマン経営者にとって最も都合がいいのです。
そして取締役の任期は2~5年程度と決まっており、短期間で次のサラリーマンに交代します。 何か熱意をもって取り組もうと思っても、その成果が表れるころにはもはや自分は引退し、「ただの人」になっているのです。 「長期的な目線で会社を成長させる」モチベーションがないのです。
一方で機械メーカーのディスコやDMG森精機は、創業家出身者が社長・会長を務めていますが、 その業績が自分の資産に直結し、また長期的な目線で経営が行えるため、 社員の待遇アップにもかなり力を入れています。
ディスコは独自の経営手法でボーナスが「11か月分以上」と高額なことで知られており、 DMG森精機はほかの株主の反対を押し切って利益の一部を社員の教育費として使い、 「平均年収をもっと高めて労働時間はドイツ並みに減らす」と公言しています。
これは創業家で任期が決まっておらず、会社の利害が自分に直結する経営者ならではの取り組みです。 待遇改善が生産性向上につながるなら、待遇改善をします。その結果が10年先であろうと、それで自分もトクをするからです。
任期が短く株式も持っていないサラリーマン経営者では、このような取り組みはなかなかできないでしょう。 これも日本の給料が上がらない理由として大きな要素です。
生産性が上がっても給料は上がらない
AIやIoTによる生産性の向上が注目されていますが、残念ながら生産性の向上は給料の上昇にはつながりません。 「年功序列」や「ぶら下がり社員」の問題もありますが、「イノベーションが生まれない」ところに一番大きな課題があります。
現状でさえ、企業はアベノミクスの恩恵で過去最高の利益を更新しています。 ですが、その利益は給料に跳ね返ってきていません。 「内部留保によってカネをため込んでいる」と批判する人もいますが、それも誤りです。
すでに日本経済は成熟期にあり、「作れば売れる」という時代は終わっています。 これはつまり、他社とのシェアの奪い合いの時代になっているということです。 人口減少が騒がれている昨今、パイ全体が縮小する中、その小さくなっていくパイを企業が争っているのです。
すると、まったく新しいカテゴリーの商品・サービスを発明しない限り、 価格競争をせざるを得ないのです。つまり、稼いだ分は値下げに使うことが決まっていて、 そのための設備投資を繰り返します。だから、いつまでたっても社員の給料が上がらないのです。
これは、日本企業が国内でのシェア争いを繰り広げている間は、イノベーションによってしか解決できません。 全く新たな商品・サービスで、十分な利益がとれるビジネス、悪く言えば「高く売れるモノ」をつくらないといけないのです。
労働分配率を規制する法律はありません。1人の社員がいくら稼ごうとも、「最低賃金しか払わない」ことだって可能です。 生産性が高まって割を食うのは社員です。何しろ1人当たりが管理する業務は大幅に広がる一方で、 頑張って稼いだお金は「値引き」のために使われてしまうのですから、給料は増えないのです。
給料を増やすにはまず生産性を高めることが必要ですが、その上で「労働分配率を規制する」「値下げ合戦をやめる」 といった対応が必要になってきます。
メーカーの給料が安い理由
メーカーの給料が安い理由は、労働集約型産業だからです。 とにかくたくさんの労働者を工場に集め、大量生産するというビジネスモデル自体が、給料が安くなる原因です。
メーカーはとにかく社員が多く、大勢の力で1つの製品をつくります。 1つのプロジェクトにかかわる人数が多い分、「ぶら下がり社員」も多くなります。 スーパースターが何人かいた程度では、ぶら下がり社員の分までカバーすることができません。
全員が同じだけ頑張れば給料は高くなるはずですが、社員数の多いメーカーでは無理な話です。 どうしても処理能力には個人差がありますし、人数が多ければ多いほど、ぶら下がり社員も増えます。 「一斉昇給」「定期昇給」を前提とした日本の賃金制度では、ぶら下がり社員の昇給のため、頑張っても報われにくいのです。
さらにここに「過当競争」や「年功序列」という悪い要素が作用します。 日本が得意としてきた「モノづくり」はすでに限界レベルに達しており、 技術力だけでは他の企業と差別化ができません。
パソコンやスマホをはじめとした家電は、「ハード」ではなく「ソフト」で選ばれる時代になっています。 自動車産業も同じ道をたどるでしょう。ですが日本企業はいまだ「技術力」にこだわっており、 「モノ」ではなく「コト」、要は「ユーザーにどんな”体験”を提供できるか」という時代に乗り遅れています。
勝負にならない要素で戦っている以上は、メーカーは過当競争に陥るしかありません。 顧客にアピールできない製品しかつくれないメーカーは、他のメーカーと価格で比べられ、 安いものが売れます。つまり、利益が出ません。
そしてかろうじて出た利益も、「スタッフ部長」などの名ばかり管理職に吸い取られていくのです。
メーカーで給料が高い会社は「キーエンス」や「ファナック」「ディスコ」などがあります。 特にキーエンスは平均年収が2000万円を超える企業ですが、キーエンスは「モノ」だけを売っているのではありません。
顧客の工場や研究室に出向いて「工場がやりたいこと」を一緒に追求し、それに最適な機械や部品を納入するのです。 このような「工場コンサルティング」とも言える「生産性向上の体験」を顧客にさせることで、 機械や部品を高く買ってもらえるのです。
逆に、純粋に「機械」や「部品」という「モノ」を売っているだけのメーカーは給料が安くなります。
サービス業の給料が安い理由
サービス業の給料が安い理由は、「過当競争」と「日本人に”サービス”にお金を払う意識がないこと」の2つがあります。
特に小売業や飲食業といった典型的なサービス業は非常に給料が安く、 「人手不足」なのに給料が上がりません。なぜなら、高い給料を払えるほど儲かっていないからです。
小売店の商品はメーカーが製造します。小売店の「製品」ではないのです。 例えば家電は、「街の電気屋さん」で買っても「ヨドバシカメラ」で買っても同じ型番なら、まったく同じモノです。
すると、小売店は「値引き競争」によって顧客に訴求するしかありません。 アパレルショップでは常にセールを実施しています。家電量販店も事あるごとにセールを実施します。 スーパーは「コストコ」などのディスカウントストアが流行し、果てはアマゾンでネット注文されます。
小売店は「安いこと」だけで勝負することになってしまい、利益が出ないのです。 そのため給料を増やす余裕がありません。
飲食業も同じです。高級レストランでもない限り、料理はどこのお店でも一定以上のレベルでつくれます。 ガストやサイゼリヤであろうが、ロイヤルホストやジョナサンであろうが、一定以上の味は期待できます。 「まずくて食べられないレストラン」など、まずありません。
特にサラリーマンの昼食はただエネルギー補充のためだけに行われるようなものですから、 「一定のレベル」さえ満たしていればどこのお店でもいいのです。
この場合、飲食業の勝負所はやはり「安いこと」になります。 値段を抑えて顧客に訴求するため、やはり利益が十分に出ません。 利益がないために、飲食業の給料も上がらないのです。
そもそも日本人には「サービスにお金を払う」という意識がありません。 コンビニでおにぎりを買うとき、「レジ対応してもらう料金」など考えている消費者がいるでしょうか。 むしろ「スーパーより高い」「自分で作ったほうが安い」などと考えているのではないでしょうか。
「店員に何かをしてもらう」というサービスそのものにお金を払っている意識がなく、 純粋に「モノ」を買っている気分です。「サービス残業」という言葉にも表れているように、 日本人にとって「サービス」とは「無料」を意味します。
日本人は「サービス」に価値を見出せない。これがサービス業が儲からず、給料が安い最大の原因だと思います。
ただ年収が高ければいいというものではない
そもそも給料が安いサービス業に対して、銀行や証券会社など「給料が高い」と思われている業界はどうでしょう。 30歳ごろに年収が1000万円を超え、40代で年収2000万円も可能な銀行・証券は就活生にも人気があります。 金額だけ見れば途方もない高年収で、いかにも「お金持ち」なイメージがつきますね。
しかし、年収が高いだけで「給料が高い」とは言えません。 給料が高いか安いかは、「頑張った分」と比べられるべきです。人より2倍も3倍も頑張ったなら、 2倍も3倍も給料をもらっていいはずです。
銀行や証券会社は、「頑張った分」と「給料」を比べると、あまり給料が良いとは言えません。 なぜなら年収も高いですが、「激務」のレベルが群を抜いているからです。 深夜残業や休日出勤が多いという意味ではありません。仕事に係るストレスがハンパないのです。
銀行や証券会社では、とにかく「スピード」と「正確さ」を求められます。 仕事が速くてもミスがあれば怒鳴られ、正確に仕事をしても遅ければ怒鳴られます。 基本的に仕事中は常に怒られている業界です。
オフィスでの仕事が終われば外回りの営業で、外回りの営業でも客先に怒鳴られ、 オフィスに戻れば怒鳴られ、ノルマが未達だと怒鳴られ・・・と非常にストレスのかかる業界です。 高い年収が魅力的に思えないほど頑張らなければならないのです。
その意味では銀行や証券会社は「給料が安い」と言えます。 それだけのストレスを受けるのに、年収1000万円や2000万円では到底足りないというわけです。 だから銀行や証券会社に就職しても、5年ほどで半数が辞めてしまうのです。
年収の高い会社ではどこでも同じことが言えます。高給激務で有名なキーエンスしかり、 ゴールドマン・サックスやJPモルガンなどの外資系金融しかり、日本エスリードなどの不動産会社しかり。 年収の高い会社は、仕事で受けるストレスと比較すると給料が安いとも言えます。
給料の高い業界
給料の高い業界はどこがあるでしょうか。 「頑張った分」に対して「給料」がどれくらいあるかが本当の意味での「給料の高い会社」です。 言い換えれば「給料そこそこでまったりな会社」となるでしょうか。
この意味での「給料の高い業界」はメーカーではないかと思います。 銀行や証券会社は激務すぎますし、サービス業は薄給激務です。 もちろんメーカーにも薄給激務、高給激務の会社もあります。 しかし、給料そこそこでまったりな会社は、メーカーに多いと思います。
というのも、メーカーは1つの契約で大きな金額が動くからです。 1つの契約で何千万円、何億円という契約になります。社員1人あたりの利益が非常に大きいのです。
その分契約を取るのに注力しなければなりません。 しかしメーカーには独自技術があり、長年の取引からくる信頼性があります。
メーカーのお客さんはメーカーだったり、小売店だったりします。 買い手もただ安いだけのメーカーから不良品を買っては自分のお客さんに不良品を売りつけることになってしまいますから、 高品質と信頼性を求めます。
そのため居酒屋や外食チェーン店より価格競争になりにくいという特徴があります。
またメーカーは「工場」という莫大な設備投資が必要になりますので、 新規参入も難しく、過当競争になりにくいです。
さらに銀行や証券会社のようにピリピリした雰囲気でもありません。 家庭用営業もなければ、厳しいノルマもありません。 メーカーは銀行や証券会社と異なり、働けば働くほど儲かるという業界ではないからです。
メーカーは銀行や証券会社のように高給というわけではありません。 しかし定時で帰れたり、休日出勤がなかったり、工場の職人に合わせて休日が多かったり、 福利厚生が充実していたりとストレス面で優れています。
バランスが取れていて「給料が高い」会社と言えるのではないでしょうか。
また、IT業界も一概に薄給激務とは言えません。 確かに下請のプログラミング会社は薄給激務かもしれません。 しかし上位のサービス会社はピンキリです。
というのも、ITサービスは少ない人数で莫大な利益をあげることが十分可能だからです。 アイデア勝負の世界なため、入社も難しければ仕事も難題が多いです。 しかしアイデアをよく思いつく人にとっては天国のような業界です。
IT業界の経費というと、人件費や電気代、オフィス代くらいなものです。 工場の固定費を払う必要もなければ、在庫を抱えるリスクもありません。 ただサービスが利用されるかされないか、それだけにかかっているのです。
うまくいけば数人で何億円もの利益を出すことも可能ですし、 まったく儲からない可能性もあります。前者の会社に就職できれば、 「給料が高い」と言えるでしょう。
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著者:村田 泰基(むらた やすき)
合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。
その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、8年間に渡り学生の就職活動を支援している。
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