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「グローバルで即戦力な新卒就活生」の幻想|そんなのいない!

 就活で企業は、グローバル即戦力な就活生を採用したがる傾向があります。 たとえば「留学経験のある帰国子女」「学生起業の経験がありマーケティングのスキルがある」など、 いわば超人的な経験を求められることが少なくありません。



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グローバル人材を求める企業の疑問点

 なぜ企業は、グローバル人材を求めるのでしょうか。

 確かに日本は人口が減少の一途をたどり、国内市場は縮小していくと予想されます。 人口が減少するということは、需要が減り、企業の売り上げも低迷するということです。 「大きな市場に出ていかなければ企業の増収増益はない。つまり海外進出だ!」というわけです。

 海外進出をしなければならないのはわかります。例えば英語圏に進出できれば、英語を母国語とする4億人の市場、 英語を話せる14億人の市場に進出することができます。商売の相手は1億人の日本人から、「14億人の英語が話せる人」 に拡大するわけです。

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なぜ英語を話せる「日本人」にこだわる?

 しかし、なぜ英語を話せる日本人大学生を採用したがるのでしょうか。 就活では多くの企業のエントリーシートには「TOEICスコア」を書く欄があり、 「海外経験」「留学経験」を書かせ、「英語が話せる」ことを重視していると言えます。

 そんなに英語が大事なら、通訳を雇ってはどうでしょうか?しかし、日本企業は通訳を採用しません。

 では、アメリカ人を採用してはどうでしょうか? しかし、日本企業はアメリカ人を採用しません。

 なぜ日本企業は通訳でもなく、アメリカ人でもなく、「英語の話せる日本人大学生」にこだわるのでしょうか。

 通訳を雇えないのは、コストの問題です。通訳を専属で雇おうとすると、少なくとも正社員並みの待遇が必要です。 外国人と打ち合わせをする際、必ず通訳を連れて行く必要が出てきますし、 同時に何か所かで打ち合わせや会議が行われようものなら、それだけの人数の通訳を確保しなければなりません。

 さらに、通訳は、通訳している時間以外は仕事がありません。それでも会社は給料を払わなければなりませんから、 無駄なコストがかかってしまうというわけです。

 英語ができるグローバル人材を雇えば、英語で話している時間以外もしっかり働いてもらえるというわけです。 仕事ができることが前提で、さらに英語が話せることで、人材をフル活用して働かせることが可能なのです。 要はバリバリの営業マンが英語もできたらいいよねということです。営業ができない通訳を雇っている余裕はないのです。

 

上司が英語を話せないから

 アメリカ人を採用しない理由は単純です上司が英語を話せないからです

 こんなに簡単な理由はありません。これまで国内市場だけでやっていけた時代、上の世代で英語を話せる人はなかなかいません。 そんなマルドメな人の部下にアメリカ人を採用してしまったら、新入社員と言葉が通じないという大問題が発生するわけです。 指示が出せませんので、アメリカ人部下をフル活用して働かせることができません。

 アメリカと日本では言葉も違えば文化も違いますから、飲み会に誘っても来てくれないかもしれませんし、 残業を嫌がってさっさと帰ってしまうかもしれません。横並びを好む日本人は、アメリカ人を採用するのが怖いのです。

 そのため、日本語が通じる日本人大学生が、英語もできたらいいよねと言っているわけです。

 会社は大学生を新卒で採用してコキ使うわけですが、上司となる自分は英語が話せません。言葉の通じないアメリカ人より日本人のほうが都合がよく、 通訳しかしてくれない通訳を採用するより、バリバリ仕事をさせられる新卒を求め、なおかつ「英語もやれ」 と言っているのです。日本企業がいかにワガママかわかりますね。

 会社の年配社員は、「自分は英語ができない。そうだ!若いやつに英語をやらせればいい! 英語もやって仕事もやって俺のストレスのはけ口としても機能しろ!」とでも思ってるかのような要求ですね。

 

即戦力な新卒などいない

 即戦力就活生を求める企業も多いです。

 学生起業の経験者など、マーケティングや経営のスキルがある大学生、 アルバイトで高度な営業スキルを身につけていたり、経営に携わっていたり、 学生団体を立ち上げたりと、超人的な経験をもつ大学生を求める場合があります。

 また、プログラミングや機械、電気、化学などの科学技術。経済、経営、法律などの社会科学の専門家ともいえるほどの、 プロフェッショナル性を求める場合も多いです。

 しかし、即戦力幻想です。

 そもそも社員は、「3年働いて1人前」とよく言われます。これは、これまでの新入社員が一人前になるのに、 だいたい3年かかってきたという積み重ねの実績を根拠に言われることです。

 さて、その「3年」を「大学生のうちにやっておけ!」と言い放つ言葉が「即戦力」です。

 会社は新卒の新入社員を育てる気がなく、大学生のうちに会社で働く能力を身につけておけというのです。 それでいて新卒の初任給は他の会社と同じくらいの20万円前後ですし、 急に給料がアップするというわけでもありません。待遇もやはり、新卒の待遇です。

 これも大変身勝手な企業のワガママであり、バリバリ仕事してもらいたいけど教育したくないというわけです。

 残念ながら、起業して成功した学生はそのまま実業家になります。専門的知識を極めている人は大学に残り、 研究者の道を歩みます。そもそも会社が高度な人材を高望みしすぎているのです。 優秀な社員がほしければ、それなりの対価を払わなければなりません。

 教育コストもその1つです。教育コストをかけずにバリバリ仕事をさせるだなんて虫の良い話です。

 

就活生への要求がエスカレートする社会

 就活生に対する社会の要求は年々エスカレートしています。

 過去には「中卒は金の卵」と言われた時代もあり、高卒で高学歴とされる時代もありました。 いつしか大卒が標準になり、さらには大卒の中でも特に旧帝・一工・早慶・MARCH・関関同立といった有名大学だけもてはやされるようになり、 今ではそれに加えて「英語ができて即戦力になる人材」とまで言われるようになりました。

 確かに仕事自体は多くがパソコンやロボットに取って代わられ、会社が必要とする人材も少なくなっています。 それだけ高度な能力を持った人材しかいらないという時代になってきているのはあるでしょう。

 しかし、採用する側は少なくとも、今より求められることは少なかったはずです

 新入社員の仕事量も、昔とは大きく異なります。昔の新入社員は電話を取り、言われた資料を探し、資料を片付けることが任務でした。 今はそれに加えて実務もバリバリやらなければなりません。昔の新入社員に比べたら、かなり即戦力になっているとも言えます

 それでいて新卒就活のシーズンが来るたびに要求はエスカレートし、電話が取れたらよかった時代から、 仕事ができることも求められるようになり、コミュニケーション能力だの英語のスキルだの、 起業経験や留学経験まで求められるようになっているのです。

 企業が、社会が学生に甘えているのです

 本来事業に必要なことですから、会社がコストをかけて新入社員に教育を施さなければならないことです。 しかし、教育コストを嫌がって、大学生が勝手に学んで会社にタダで貢献しろと言っているわけです。

 これも悪いのは、企業だけではありません。

 こういった採用方法をもてはやすマスコミ界、それにのっかり学生時代を就職のために費やす大学生、 そういう経験がないからと卑屈になる大学生など様々な要因が作用しています。 企業が「超人」を募集したときに、「超人」が釣られてやってくるのが一番イケナイことです。

 最も効果的なのは、大学生が学問に没頭して、就職のための英語の勉強、起業、留学を行わないことです

 企業が「超人」を募集したときに、「そんなやつがいたら自分で起業するだろ(笑)」と笑い飛ばせるくらいになれば、 企業も超人を募集することはありません。そこで学生が慌てて「語学やらなきゃ!TOEIC受けなきゃ!留学しなきゃ!起業しなきゃ!」 となるから、企業も調子に乗って超人募集をエスカレートさせるのです。

 

「グローバル人材」になんかなるな!「グローバル至上主義」を疑え

 企業だけでなく、学生までもが「グローバル」「グローバル」と連呼するようになってしまいました。 そもそもグローバルそんなにいいことなのでしょうか

 企業だって、グローバルが本当にいいことだと思っているのかわかりません。 トヨタやホンダなど世界的に成功した企業をみて、「自分たちも世界で儲けよう」と漠然と思っているだけではないでしょうか。

 私の会社も国内では業界トップのメーカーですが、海外事業は全くダメです。 日本と海外では文化も違いますし、海外の地元企業のもつ信頼性に、日本企業が全く勝てないのです。

 昔世間をにぎわせた「アラビア石油」だってそうです。アラビアで石油開発を手掛けた会社でしたが、 現地の文化を積極的に理解していた社長が引退すると、アラブの文化を理解しない経営者が続き、 ついには石油採掘権を失ってしまいました。

 海外事業を成功させようと思ったら、日本人を雇っている場合ではありません。 現地の文化に精通していて、仕事ができる現地人を採用しなければなりません。 海外事業のために日本人を雇っている時点でやる気があるのか疑われます。

 それよりもっと注意するべきことは、市場が大きければ大きいほど、ライバルの数も多いということです。 日本人1億人を相手に商売する人よりも、英語が話せる14億人を相手に商売をする人のほうがよっぽど多いのです。 それだけ激しい競争になるわけですが、その中で勝ち残っていくことができるのでしょうか。

 競争の激しい市場のことを「レッドオーシャン」と呼ぶのですが、英語圏の市場はすでにレッドオーシャンです。 さらに言えば、英語を母国語とするアメリカ人やイギリス人のほうがよっぽど有利であり、 すでに欧米でじゅうぶん競争が繰り広げられてきたレッドオーシャンなのです。

 一方で日本の国内市場は、縮小傾向にあるとはいえ未だ1億2000万人という大きな市場であり、 さらに現地の文化をよく知り、日本語を母国語とする日本企業は圧倒的に有利な立場なのです。

 本当に企業はグローバル化を推し進めるべきなのでしょうか。グローバル化して、本当に利益は増えるのでしょうか。

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著者:村田 泰基(むらた やすき)
 合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。 その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、11年間に渡り学生の就職活動を支援している。 →Xのアカウントページ




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