なぜ日本は価格競争に勝てないのか
日本企業はなぜ、海外企業との価格競争に勝てないのでしょうか。 よく「日本は人件費が高い」と言われます。海外に工場を作った方が人件費が安く、 それだけ安く製品をつくることができるというのです。ですが、問題はそこではありません。
先日、パナソニックが北米テレビ事業の撤退を決定し、 続いてシャープもメキシコ工場を売却する案が浮上しています。 日本のテレビは北米での価格競争に負けてしまったわけです。
しかし、日本企業も海外に工場を作り、海外を拠点に営業活動をしているはずです。 安い人件費で生産しているのではないでしょうか。 なぜそれでも日本企業は価格競争に負けてしまうのでしょうか。
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価格競争で勝てない理由は、人件費ではなく「物価」
日本企業が価格競争に勝てないのは、人件費というよりは物価の問題です。
例えば中国では、日本の物価の10分の1だったとしましょう。 ここで工場を建てれば日本の10分の1の価格で製品をつくることができます。 最も物価の安い地域で工場を建てれば、他のどの国より安く製品をつくることができるはずです。
しかしここで忘れているのが「利益」です。 いくら海外でバンバン製品が売れても、価格が日本の10分の1ならば、利益も日本の10分の1なのです。 これが中国の会社なら問題ないのですが、日本は日本国内に利益を持ち帰らなければなりません。
日本に利益を持ち帰った時、日本で製品を10台売った時と、海外で100台売った時の利益が同じ金額なのですから、 物価の安い地域で製造販売しても全然儲からないというわけです。
中国企業が値下げをして利益を削るのと、日本企業が値下げをして利益を削るのではわけが違います。
日本でテレビを1台売った時、1万円の利益が出るとしましょう。例でいうと、中国で作った場合は1台で1000円の利益ですね。 ここで価格競争が起こって、中国企業は1台500円の利益で我慢することになりました。 利益は半減していますが、それでも利益は出ています。
一方日本企業の場合、日本なら1台で1万円の利益が出るのに、中国で売れば500円の利益にしかならなくなるわけです。 利益があるのかないのかわからないレベルにまで落ち込んでしまいます。
そして中国企業はその激安な製品を世界中に輸出します。 日本もその激安製品に対抗すべく価格を下げなければなりませんから、ますます利益を削ることになります。
要約すると、物価の安い国で製造すると、利益も同じ割合で少なくなるということです。 儲からないので、撤退したほうが良いとなるわけです。
価格競争は底なし
価格競争は底なしです。
新自由主義の方々は「企業が生き残れる最低ラインで価格競争は止まる」と言います。
利益が出る最低ラインの価格まで下がれば、それ以上は下がらないという理論です。 全ての人間が合理的に動くことが前提となっており、原価割れの価格では売らないことが前提になっているのです。
しかし、価格競争はそんなに甘くありません。
全ての企業が生き残りをかけて、本気で価格競争に注力します。 工場や社員の給料などの固定費は必ずかかってしまいますので、 原価割れしてでも、少しでも製品が売れたほうがいいのです。
原価が100円の製品があったとしましょう。100円より高い値段で売らなければ、利益は出ません。 しかし、売れなければ100円まるまる赤字です。原価割れの50円でも、売れたら赤字は50円に圧縮できるのです。
そういうわけで、原価割れのダンピング合戦となり、先に倒産したほうが負けという状態に陥ります。 原価ギリギリで価格競争がストップするなんてことは、ありえないのです。
ダンピング合戦になると企業は疲弊しますし、品質も低下していきます。 何より社員へのボーナスも払えなくなりますし、株主への配当金も払えなくなります。 企業としては最悪の状態ですね。
このような価格競争からは、さっさと手を引くのが一番賢いやり方です。 ダンピング合戦の結末を予想できる日本企業は、価格競争にあえて負けて退場するのです。
このような理由で撤退を始めているのが「100円ローソン」です。 これは国内の話ですが、次の関連記事で詳しく解説しています。
まだ海外では「品質」で勝負できない
日本では徐々に「安ければいい」時代から「品質と価格」両方を重視する時代に移り変わってきています。 毒入り餃子事件や食品の異物混入事件、家電製品のリコールなどを経て、 「安かろう悪かろう」では困ることが浸透しているのです。
しかしまだ、海外では品質重視の土壌は出来上がっていません。 Youtubeや掲示板などで日本製品がもてはやされているのは、 その国の富裕層が品質を重視しているだけであって、一般人までもが品質を重視しているわけではありません。
日本がかつてそうだったように、とにかく安いものを買うのが当たり前なのです。
逆に、日本の消費者はとても成熟していますので、安すぎる商品はむしろ怪しいと思うようになりました。 テレビが5000円で売られていたら、どこかに致命的な欠陥があったり、壊れていたり、 何の役にも立たないのではないかと不安になるわけです。
一方で海外ではまだ、低所得者が満足にテレビを買える環境にありません。 日本製品を買う余裕はなく、粗悪品であっても激安テレビに飛びついてしまうのです。
さらには中国製、韓国製など新興国の生産技術も伸びてきており、 わざわざ日本製を買わなくても十分に楽しめるという時代にもなってきています。 「高くて高品質な日本製」よりも「安くてそこそこの品質の中国製」のほうが魅力的にうつるわけです。
「価格競争」ではなく「高付加価値」で勝負しろ!と言われても、 海外ではまだ高付加価値では勝負できないことがわかっているのです。 そのため日本の家電メーカーは販売戦略の転換ではなく、撤退を決めるのです。
海外で売れるもの
海外で価格競争に打ち勝つには、どんなビジネスがあるでしょうか。
日本製を海外で売りさばくには中古市場でしょう。
いくら不景気とはいえ日本人はお金持ちです。引越しのタイミングで洗濯機や冷蔵庫を買い替えたり、 4年に1度は新車を購入したりと、まだ使える物を捨てます。 これを破格で買い取り、あるいは無料回収して海外に持ち込むのです。
実際に日本の自動車やバイクの中古品は、東南アジアや中東、アフリカへ輸出されています。 私が大学時代に乗っていたバイクも、今ではアフリカで走っています。
日本では中古品は異常なまでに安く買い取り、ひどいときには回収料金を受け取ってまで仕入れることができますから、 海外の粗悪な新品よりはよっぽど安く販売することができます。
こういったビジネスがあまり見られないことから、 海外で中古品を売るより日本国内でスクラップにしたり、分解して部品をどこかの業者に販売したほうがもうかるということでしょうか。
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著者:村田 泰基(むらた やすき)
合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。
その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、11年間に渡り学生の就職活動を支援している。
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