5日間の有給取得義務は効果があるのか|まあ、ないよね
毎年5日間の有給取得義務化が報じられました。 さて、有給取得義務に効果はあるのでしょうか。
これまでは、労働者が上司に有給取得を伝えることで消化していました。 しかし「同僚に気を遣う」「上司に嫌味を言われる」などの理由で、 有給を消化できない労働者が非常に多かったのです。
「働きすぎ」を是正するために厚生労働省は、有給のうち5日間の取得を義務化するという法改正を行おうとしています。 この法案が通れば、全国の労働者は年に5日は有給を取得できることになります。
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フランスでは有給消化は当たり前
フランスでは有給取得は当たり前です。 フランスでは有給休暇は6週間もあり、そのうち4週間を連続で使い、夏休みにするのです。
いくら日本にも有給休暇の制度があるとはいえ、こんな使い方は日本では考えられませんね。
フランスでは「有給休暇は労働者の権利である」という認識が強く、 「給料をもらう」「立て替え払い金を請求する」のと同じ意識で有給休暇を取得します。
誰かの誕生日だとか、イベントがあるとかで容易に有給取得が可能で、 同僚や上司に気を遣うことが少ないそうです。 ましてや「過労死」だなんて考えられないことだそうです。
日本企業は「グローバル」を標榜し、海外の真似をして終身雇用を廃止し、 リストラや希望退職制度を使ったり給料を下げたりする一方で、 有給休暇については海外の真似をしません。
日本社会がまだまだ昭和を引きずっているところに原因があります。 この意味では「日本はまだまだ戦後」と言えます。
日本で有給休暇が取れない理由
日本で有給休暇が取れない理由はいくつかあります。
- 周りの目を気にする国民性
- 出勤することに意味があると思っている
- 「頑張っている」アピールが重要だと思っている
およそこの3点でしょう。
周りの目を気にする国民性が最も悪さをしています。 「誰かに嫌味を言われるのが嫌だ」「休んだ日は自分の悪口で盛り上がっているんじゃないか」 と心配になるのです。
私も、課長が別の先輩社員について「あいつよく休むけど仕事が嫌いなのかな?」 と聞かれ、返答に困ったことがあります。 昭和のサラリーマンには「休む=仕事が嫌い」とうつることがあるのです。
気にしなければいいのでしょうが、出世を期待するサラリーマンにとっては無視できないものです。 結局のところ有給が取得しづらくなっていくのです。
出勤することに意味があると思っているのも日本人の特徴です。 生産性や効率性は二の次で、まず出勤することが重要だと考えています。
仕事には波がありますから、暇な時は暇です。何もすることがなくても、 有給休暇を取らずに出勤することが美徳とされているのです。
私自身、上司に一気飲みを強要されて酔いつぶれ、翌朝起きられなかったことがあります。 その日は昼前に出勤したのですが、「這ってでも来い」といろんな方に言われたものです。 這うも何も起きられなかったのですが。
いろんな方が「会社で寝てていいから出勤だけはしろ」というのです。 出勤する意味があるのでしょうか。不思議ですね。
「頑張っている」アピールが重要だと思っているのも日本人の特徴です。 短時間で成果を出すよりも、長時間かけて成果を出せないほうが評価されるのが日本社会です。
さっさと成果を出して有給を使うより、有給を使わず長時間の残業をして、 何の成果も出せないほうが「頑張っている」アピールになり、上司から評価されるのです。
これは未だに精神論が通用する日本社会の不思議なところです。 とにかく出勤し、長時間働くことが美徳とされ、成果は二の次なのです。
国際競争力を上げたければ「1年間のノルマを達成したら残りの時間はすべて休み」 くらいやればどうでしょうか。
有給取得の義務化は効果がない!?
有給取得の義務化は効果がないと思います。
日本には星の数ほどのブラック企業が存在します。 「労働者の権利」という概念がなく、「働かせてやってるんだからありがたく思え」という意識です。
有給休暇は給料ほど重要な権利ではなく、会社にとって有給取得をさせないほうがオトクと思っているのです。 「休んでいる暇があったら働け」と、生産性や効率性を二の次にした精神論です。
今でも有給休暇を取らせるように政府から指導がありますから、 企業は有給消化率を高める姿勢をアピールしなければなりません。
そんなときは企業はどうするでしょうか。
そうです。休んだことにしてしまえばいいのです。 社員の出勤カレンダーを開き、適当に「この日は有給取得した」と書き換えてしまうのです。 これは今でも行われていることです。
5日間の有給取得を義務化したところで、本当に有給を消化できるのは一部のホワイト企業に限られ、 大多数のブラック企業では「5日間有給休暇を取得した」ことにされてしまうのが関の山です。
しかし、企業がこういう不正を働いていないかどうかは、厚生労働省としては確認のしようがありません。 企業の不正行為をいかに取り締まるかが有給取得義務化の効果を左右するでしょう。
日本は精神論が通用し、昭和初期から進んでいない
一生懸命やればなんとかなる、頑張れば幸せになれる、会社のために生きろと、 日本では精神論がいまだに通用します。戦時中の日本と何も変わっていません。
「欲しがりません勝つまでは」のように「我慢」を美徳とし、 遊んだり勉強することをやめて、戦争のために工場で働くのが学生のあるべき姿とされ、 「戦闘機を買うために募金」することが新聞記事に取り上げられる。
今の日本と何ら変わりはありません。物価が上がって給料が増えなくても「我慢」する。 休みたくても会社のために出勤する。会社の利益が減ってしまってはいけないのでサービス残業をする。
認められているはずの権利をわざわざ放棄して奴隷のように尽くすのが美徳とされているのです。 神風特攻隊を批判する人は大勢いますが、過労死はそれほど問題になりません。 どちらも最悪の結末です。
結局のところ、戦争に負けても「精神論じゃ通用しない」ことを理解できなかったのです。 「頑張りが足りなかった」「我慢が足りなかった」と見当違いの方向へ行ってしまっているのです。
精神論が根強い時期にたまたま高度経済成長期を迎え、 「精神論によって日本は急成長した」という勘違いを生み出してしまいました。
モノがないのだからモノを作れば売れるのは当たり前です。 頑張ったからでも、一生懸命やったからでもありません。時代のおかげです。
しかし「精神論を唱えていても成功した」という実績を作ってしまったがために、 日本ではいまだに「出勤さえすればいい」「長時間働くやつは頑張っているいいやつ」という認識を産み、 昭和脳から脱却できていません。
成功した企業は「頑張っているから」、赤字を生み出した会社は「頑張りが足りなかったから」 と評するのは簡単ですが、間違っています。
著者:村田 泰基(むらた やすき)
合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。
その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、11年間に渡り学生の就職活動を支援している。
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