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公務員の仕事は無駄が多い?|窓口・ハンコ・赤字事業はいらない?

 公務員の仕事には無駄が多いとよく言われます。 それは本当でしょうか。窓口対応やハンコ主義、赤字事業などをそれぞれ検証しました。



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公務員の窓口対応が悪い?

 公務員窓口対応が悪いとよく言われます。 窓口をたらいまわしにされる、職務怠慢、態度が悪いなどと言われます。 しかしこれ、窓口に来た市民のほうが悪いのが大半です。

 市役所で「窓口をたらいまわしにされる」というのは、市民が窓口を間違えているからです。 住民税の窓口で住民票が出てくるわけがありません。住民票を取りたい人は他にもいます。 順番を守らず他の窓口で住民票を出そうなんて、公平じゃありませんね。

 「民間なら別の窓口でも対応してくれる!」という人がいますが、 ショッピングモールのファッション専門店で食料品の会計をしてもらえるでしょうか? 窓口を間違えるというのは、これと同じくらいおかしなことです。

 「職務怠慢」も勘違いです。窓口の奥に公務員がいるのに、混んでいても窓口対応をしないと文句を言います。 しかしこれも仕方のないことです。奥にいる公務員は窓口から渡された書類の処理をしているのです。 奥の公務員が窓口に立ってしまえば、申請書類を処理する人がいなくなり、市民は永遠に待たされることになります。

 「民間ならレジ対応を優先する!」という人がいますが、窓口はレジではありません。 窓口で処理が完了するならともかく、受け取った後の作業をする人がいなければ住民票は出てきません。

 例えば住民票は市長の名前で出されます。本来なら市長にハンコをもらって初めて住民票が有効になります。 しかしいちいち市長に書類を確認してもらって、ハンコをもらっていたら時間がかかりすぎます。 そこで、ハンコを押す権限を市民課の課長に委任しています。

 窓口の後ろにいる公務員は、窓口担当から渡された書類をチェックし、課長の決裁をとり、 有効な住民票を発行するまでが仕事です。職務怠慢でもなんでもなく、 提出された書類の処理をしているのです。

 「窓口対応の態度が悪い」は大きな勘違いです。 そもそも市役所の窓口はお店ではなく、市民も「お客様」ではありません。 民間の過剰なサービスに合わせるほうが無駄です。

 証明してもらったり、何かをお願いする立場でありながら、横柄な態度をとる市民のほうが間違っているのです。 「お金を払うとエライ」という感覚はそもそも間違っており、支払う金額に見合った書類を受け取れるのです。 民間企業はヘコヘコするのは「もっとお金を使ってもらうため」であって、市役所はそんな必要はありません。

 

窓口は外注業者

 さらに言えば、役所の窓口は外注業者であり、公務員ではありません

 役所の使命の1つに「住民に仕事を与える」というものがあり、 民間でできることは可能な限り民間にやらせるというのが原則です。

 本来なら窓口業務は「民間でできる仕事」なのかというと、付加価値の出る仕事ではないので怪しいところです。 それでも国民がクレームをつけるので、サービス向上のための仕組みとして、 窓口業務を競争入札にかけたというわけです。

 

公務員のハンコ主義が無駄?

 公務員の仕事には、ハンコがかなり重要な役割を果たしています。 ハンコをとにかく押してもらわないといけないので、書類の処理に時間がかかりすぎると言われます。 しかし実は公務員に限らず、規模の大きな組織では当たり前の管理体制です

 市役所などが出す書類は、「市民課の田中さん」のハンコでは困るわけです。 市役所の出す書類は、「市長」など、選挙で市民に選ばれた「特別職」の公務員がハンコを押す必要があります。 市役所が出す書類ですから、市役所を代表できる権限の持ち主でないといけません。

 市長のハンコを押すということは、市長を選挙で選んだ市民全体が認めた書類ということになります。 住民票1つをとっても、かなり責任のある書類なのです。 税金や許認可の書類はいわずもがなですね。

 何かを証明する書類は市役所、市民全体に責任が生じるわけですから、 関係部署の係長、課長、部長、局長、市長といろんな人がチェックして、 「間違いがない」ことを確認する必要があります。

 もしもチェックなしで書類にハンコを押していたらそれこそ「ずさんな管理体制」と言われてしまいます。 時間はかかりますが、それだけ重要な書類を作成しているわけですから、ハンコはやはり必要なのです。

 「民間ならもっとスピーディだ!」という人もいますが、それは間違いです。 組織が大きくなればなるほど、いろんな人が書類を確認する必要があります。

 私はメーカーで働いていますが、「担当者→課長補佐→課長→担当部長→部長→理事→本部長→社長」 と書類は回っていきます。本部長決裁の書類などは帰ってくるのに1ヶ月かかりますし、 部長決裁でも1週間かかります。

 中小企業など、すぐそばに社長がいる会社ならスピーディな決裁も可能かもしれません。 しかし組織が大きければ決裁者と物理的に距離が離れていますし、 ハンコを押す人が多ければ多いほどそれだけ時間がかかります。

 ハンコを押すのに時間がかかるのは、お役所だからではありません。 規模が大きければどこでも同じことです

 

公務員は赤字事業を行う

 公務員は平気で赤字事業を行うと、文句を言われます。 例を挙げれば市営地下鉄や市営バス、国鉄や郵便もそうですね。 赤字を出しているとすぐに叩かれます。「赤字=無駄」だと考えている人が多いです。

 しかし、そもそも赤字だからこそ公務員がやっているという前提を忘れてはいけません。

 

放っておくと民間がやらない仕事

 もうかる仕事なら民間でもできます。 ですが、もうからない仕事は放っておくと誰もやりません。 そこで、公務員の出番です。

 資本主義社会では、基本的に仕事は民間にやってもらいます。 民間企業が利益を出しながら社会を発展させていくのが原則です。

 しかし、もうからない事業があります。それが地下鉄やバス、国鉄なのです。

 「国鉄は民営化されて莫大な利益をあげているじゃないか!」と思うかもしれません。 しかし、民営化されたJRは、建設費用という莫大な借金を税金で肩代わりしてもらっています。 最初から民間企業で新幹線や在来線を整備しようと思ったらお金がかかりすぎて不可能です。

 地下鉄やバスは市民全体の財産ですから、なるべくいろんな人が利用できるように範囲を広げる必要があります。 税金を払っているのに自宅の近くにバスが来ないのでは、そのほうが文句を言いたくなりますね。 市民全体に平等に行政サービスを実施しようとすると、どうしても赤字路線が出てしまいます。

 民間企業なら赤字路線はすぐ切り捨ててしまいますので、田舎には地下鉄もバスも来ません。 最初からもうかることがわかっている地域以外にはサービスを実施しないのが民間企業です。

 もうからない事業ではあっても、必要なサービスですから、誰かがやらなければなりません。 誰がやるかというと、お役所ですね。

 また、お役所で地下鉄やバスを運営すれば、黒字分を赤字分に補てんすることができます。 当然、地下鉄のように莫大な建設費用がかかる場合は減価償却などで赤字が続きますが、 市営バスは黒字路線のおかげで赤字路線も維持できます。

 民営化すると、赤字だからと不採算路線は廃止され、郵便局も減らされて行きます。 そこの住民は便利な生活を失うわけです。簡単に「引っ越せばいい」と言いますが、 農業や林業など、そこから引っ越すと仕事にならないものはいくらでもあります。

 

赤字だからと辞めると国民が困るサービス

 水道事業や郵便事業は特に信頼性が必要な事業です。絶対に止まってはいけないのが水道であり、 信頼性がなければ経済が止まってしまうのが郵便です。民間に任せていい事業ではありません。 それでも郵政は民営化してしまいました。これは由々しき事態です。

 水道はあまり深く考えられることがありませんが、水道は止まってしまえば大勢の人が死にます。 予め水道が止まることがわかっていればなんとかなるかもしれませんが、 突然止まってしまうとペットボトルの水などすぐに在庫切れになります。

 民間企業に水道事業を任せてしまえば、不採算な地域には水道が行き届かず、 価格競争になれば水道管を補修する余裕がなくなり、万一倒産すれば水の供給が止まります。 品質が劣化して汚水が供給されると疫病が流行しますし、危険な事業なのです。

 郵便は、お手紙を送るだけの事業ではありません。 小切手や約束手形、株券、債券などの現金や有価証券を送るのに使われますし、 契約書や官公庁からの通知書、裁判所からの通知書など、何億円というお金が動く書類も送られます。

 民間企業に任せて価格競争になんてなってしまえば、お金に困った倒産寸前の郵便会社が何をするかわかりませんし、 郵便を信頼できません。こうなってしまうと、有価証券や契約書のやり取りは直接手渡しで行わなければならなくなります。 経済がストップしてしまいますね。

 しかし郵便事業は民営化されてしまいました。この先どうなってしまうのか、本当に不安です。

 国営事業は、赤字でも続ける理由が必ずあります。

 

縦割り組織は無駄?

 公務員縦割り組織が無駄と言われることもあります。 縦割り組織だから窓口対応でたらいまわしにされ、ハンコがいくつも必要で、 無駄な仕事をしていると言うのです。

 そもそも窓口でたらいまわしにされるのは、市民が窓口を間違えているだけで、 ハンコがたくさん必要なのも上で説明しました。

 しかし縦割り組織が非効率かというと、全くそんなことはありません。 実は市役所や県庁など、大規模な組織では縦割り組織のほうが効率がいいのです。

 例えば公共工事と介護保険を取り扱う部署が同じだったら、 建設技術と介護保険両方に詳しい専門家を雇わなくてはならなくなります。 そんな人は世の中にいるでしょうか。いったいいくら支払えば働いてくれるでしょうか。

 窓口を分けることによって、公共工事なら公共工事専門の担当がつき、 介護保険には介護保険専門の担当がつき、住民票には住民票専用の担当がつきます。

 もし、全部同じ窓口で受け付けようものなら、窓口担当は全てについて詳しくなければなりません。 研修期間が長くなりすぎてそれこそ無駄です。

 また、民間企業でも縦割り組織は当たり前です。 企業に何か問い合わせるとき、直接企業の本社に出向くことはありませんので気付きにくいですが、 「お客様お問い合わせ窓口」の人がすべて解決してくれるわけではありません。

 窓口に電話すると、内容に合わせて担当者に電話をつながれますね。 もしも企業の本社に出向いて問い合わせしようとすると、 市役所と同じようにそれぞれ専用の窓口に行くよう言われるはずです。

 設計には設計担当、生産には生産担当、修理には修理担当というように、 内容に合わせて専門の担当者がいるほうが話もスムーズで、 企業としても設計担当に経理や法務まで会社の全てを教える必要はありませんので、 教育コストが安く済みます。

 特に市役所の窓口は外注したり、パートを雇ったりしますから、 採用するたびに住民票、税金、保険、児童相談というように全ての窓口業務を教えていては、 それこそ教育コストがかかりすぎて無駄です。

 縦割り組織にはちゃんとメリットがあり、それなりの理由があるのです。

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著者:村田 泰基(むらた やすき)
 合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。 その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、11年間に渡り学生の就職活動を支援している。 →Xのアカウントページ