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日本製白物家電はなぜ売れないのか?

 日本製白物家電と言えば、パナソニック、三菱電機、日立、東芝、シャープが思い浮かびます。 テレビならソニー、パナソニック、シャープの3社が特に強かった印象ですね。そう、「強かった」のです。 1970~90年代の日本製白物家電は強く、海外でも人気があり、海外の一流ホテルには必ずソニーやパナソニック、シャープのテレビが置かれていたそうです。

 しかし2000年代に入ると時代は変わり、海外のホテルに置かれるテレビはサムスンやLGなどの韓国企業に取って代わられました。 スマホ市場も世界的に売れているのはアップルの「iPhone」やサムスンの「ギャラクシー」であり、日本製ではありません。 ソニーの「トランジスタラジオ」や「ウォークマン」はまさに「イノベーション」でしたが、今となっては「iPod」や「iPhone」がその役割を担っています。

 なぜ日本製白物家電は売れないのでしょうか



 

爆買い中国人は日本製白物家電を求める

 日本製白物家電の品質が落ちたとか、知名度が下がったとか、信頼が落ちたとかいう話ではありません。 このことは、爆買い中国人のことを思い出せば導けるはずです。 爆買い中国人が多いのはユニクロや秋葉原日本橋(大阪)です。

 去年まで大阪に住んでいましたので散歩がてら日本橋を歩くことは多かったのですが、 日本橋の電気街(でんでんタウン)に観光バスで乗り付け、ジョーシン、ソフマップはもちろん、 日本人ですらあまり入りたがらない小規模な電気屋さんにすら爆買い中国人が押し寄せます。

 ついでにダイソーに寄って電池やお菓子を買い、大量の袋を抱えて観光バスに戻っていきます。 おそらくホテルに戻って発送するのでしょうが、とても飛行機に持ち込めそうではありません。まさに爆買いです

 ここで、爆買い中国人について考えてみる必要があります。 なぜ、わざわざ中国からやってきて日本製白物家電を爆買いしていくのでしょうか。

 1つは、そもそも中国で日本製の家電が売られていないからです。価格競争で中国や韓国に負けてしまうため、 そもそも中国の電気屋さんに日本製の家電は置いていないのです。日本にいればさまざまな日本製の電気製品が買えますが、 中国の電気屋さんにはときどきテレビが置いてあったりする程度で、日本製白物家電を買いそろえることはできません。

 もう1つは、日本製白物家電ステータスになるからです。やはり日本製が高品質であることは変わらず、 もっと言えば日本にわざわざ行かないと買えない「レア物で高品質な白物家電」なんて、自慢になるわけです。 特に中国元が安く、物価の高い日本で爆買いできるのは金持ちの証拠です。中国の金持ちが、国に帰って自慢するために日本製を買うのです。

 日本製品は勝手に高級路線を走っているというわけです

 日本製品にまだ魅力があることはわかりました。しかし、日本の液晶テレビ事業は縮小し、東芝は白物家電事業を売却するかもしれません。 三菱電機や日立製作所はすでに白物家電はメイン事業ではありませんし、パナソニックやソニーも別の事業が好調です。 なぜ世界シェアを韓国や中国に奪われて、それを取り返せずにいるのでしょうか

 まずは海外メーカーのことを調べてみましょう。

 

サムスンが強い理由

 世界的にテレビと言えばソニー、パナソニック、シャープという時代がありました。 ソニーの稲盛和夫はイノベーション、パナソニックの松下幸之助は経営の神様と呼ばれるなど今でも世界的に有名です。 1970年代~90年代の映画でもたびたび日本製白物家電が賞賛されていました。

 しかし今、テレビで成功を収めているのは韓国のサムスンです。 なぜサムスンは、日本企業が大苦戦して撤退すら始まっているテレビで成功しているのでしょうか。

 ご存じの通り、サムスンのテレビは高品質というわけではありません。 爆買い中国人を見ればわかるように、今でも日本製白物家電の高品質さは衰えていません。 ここでよくある勘違いは、「単にサムスンは安いだけだろう」という考え方です。

 確かにサムスンのテレビは安いです。しかし、ただ単に人件費が安いから安売りできたというだけの話ではありません。 サムスンは、日本企業が意識していなかった市場に攻勢をかけるという戦略で成功したのです

 その市場とは東南アジアです。昔、テレビと言えば日本製で、高品質でしかも安いという時代がありました。 日本が強かった理由は「ドル円の固定相場」のおかげで、円安の影響がとても強かったのです。 しかし日本が経済成長し、ドル円も変動相場になると円安のメリットが受けられなくなりました。

 特に物価の安い地域では円高の影響もあり、日本製は高品質だけど高すぎて買えないという時代が到来しました。 特に東南アジアではその傾向が顕著で、テレビが欲しくても高すぎて買えない。そこにサムスンが目を付けました。

 もちろんサムスンは「高品質」では日本に敵うと思っていませんし、同じ「高品質」で勝負しようとすれば、 やはり値段が日本製品に近づいて勝負にならなくなります。「中品質高価格」なんて最悪です。 同じ値段なら、誰もが日本製を買うでしょう。そこでサムスンは日本企業が取れない戦略に出ました

 「低品質、低価格」「中品質、中価格」です。

 世界規模で見れば、地域によって人々の購買力は異なります。比較的裕福な地域もあれば、 貧困にあえぐ地域もあります。とはいえ東南アジアには日本のように「一億総中流」という地域はありませんし、 「高品質、高価格」の製品が売れないのは明らかです。

 そこで、サムスンはその地域を徹底して観察し、売れる価格をまず考えました。 「売れる価格」から逆算してテレビの品質を決めて売るという戦略にとってでたのです。

 「良いものを作れば売れる」という時代を長く経験しすぎた日本にはとれない戦略です。 プライドにかけてでも「低品質」なんてものを日本企業は作れないのです。 昔は良い意味で「職人気質」が作用しましたが、発展途上国では話が別です。「良いもの」でも「高すぎて買えない」わけです。

 そんな中、サムスンが「買える値段」でテレビを売ってくれるわけですから、本当は日本製品が欲しかったとしても、 サムスンのテレビを買うのが妥当な選択になるのです。こうしてサムスンは日本企業が狙っていなかった市場を開拓し、 企業規模を拡大してきたのです

 

最近話題の鴻海精密工業って何よ?

 つぶれかかったシャープを買収しようと奔走している「鴻海精密工業(ホンハイせいみつこうぎょう)」とは、一体何者なんでしょうか。 鴻海は台湾の電子機器メーカーで、以前からシャープとの付き合いがあり、シャープの経営危機を救ってきた事情があります。 しかし白物家電で「鴻海」という名前は聞いたことがありません。「鴻海」とは何者なんでしょうか。

 鴻海は、世界の工場です。デル、ヒューレットパッカード、アップルなどの大手メーカーに、 パーツのOEM供給および組立をしている会社です。OEMとは「鴻海」の名前ではなく、「デル」「HP」「アップル」の名前で製品をつくることで、 簡単に言えば鴻海は大手メーカーの外注先です

 実は鴻海は、「アップル」の名前でiPhoneやiPad、「デル」や「HP」のパソコンを作っている会社なのです。

 鴻海はただの下請けメーカーではありません。世界中のメーカー(マイクロソフトや任天堂、ソニーなど)から委託を受けて大量生産することで、 日本2位のホンダの13兆円(1位はトヨタの27兆円)に匹敵する売上高をあげており、生産を依頼している任天堂(0.5兆円)やソニー(8兆円)より巨大な企業です。

 例えばiPhoneをとってみれば、中身の部品は日本製だと言われることが多いですね。電気製品の中身はけっこうどのメーカーでも同じだったりするんです。 鴻海はそこに目をつけて、いろんな会社から生産委託を受け、とにかく大量生産するわけです。そしてラベルだけ「アップル」「デル」と貼り分けて依頼者に渡す。 こうしてアップルやデルは自社工場で作るより安く、一定の品質の製品を受け取ることができるのです。

 話は戻りまして、鴻海がシャープに目を付けている理由ですが、これは日本の家電ビジネスを評価した買収ではありません鴻海は「シャープ」がほしいのではなく、液晶パネルをつくれる「工場」がほしいのです。 鴻海にとっては生産拠点が増えればさらなる大量生産、低価格化が推し進められますが、シャープは消えてなくなるでしょう

 鴻海は日本の白物家電メーカーにとってやはり、ライバル企業です。というのも、世界中のメーカーから委託生産を受けて、 大量に低価格な製品を世の中に送り出しているわけです。世界中で日本製品が売れないのも、鴻海の戦略にしてやられたという面が少なからずあります。

 白物家電業界は終わったわけではありません。儲かっている企業は必ず存在します。 日本企業とサムスンや鴻海の違いは、戦略の有無だと言えますね。

 

日本の白物家電メーカーがとるべき戦略

 日本白物家電メーカーには戦略がありません。 過去の栄光に引きずられ、「良いものを作れば売れる」と信じてやまない夢想家です。 しかし消費者の立場に立って考えてみれば、「デフレで苦しんでいるのにそもそも値段の高いものなんて買えない」わけです。

 そんな中、「低品質、低価格」「中品質、中価格」で成功したサムスン、他社の名前で大量生産して成功した鴻海のように、 日本企業と戦わずに成功する戦略を描き、見事に超巨大企業に成長した韓国企業、台湾企業に日本企業は負けています。

 戦略で負けているのに、サムスンや鴻海に対抗してテレビの値段を下げるなど愚の骨頂です。 そもそもサムスンや鴻海より安く製造できるわけがないのに、価格競争を申し込んだところで負けることは明らかです。 日本の白物家電メーカーは、値下げ以外の戦略を考えなければなりません価格競争では絶対に勝てないのですから

 単なる値下げは戦略でもなんでもありません。なぜなら、価格競争の行きつく先は「赤字」「倒産」だからです。 工場の稼働率を確保しようと日本企業が赤字で販売したところで、サムスンや鴻海はそれより安く、しかも黒字で販売できるのです。 日本企業は何か戦略を打ち出さなければなりません。

 ソニーのように保険業や金融業に転換するのも一つの手でしょう。パナソニックのように白物家電にこだわらず、 住環境の事業に転換していくのも一つの手でしょう。それでも白物家電で頑張りたい場合、どうすればよいでしょうか

 日本の優位性を考えてみましょう。まだ富裕層には人気のある日本製品。その人気の秘訣は「日本製」というブランドにあります。 少なくとも高級路線、高品質路線では「日本製」は強みを持っています。「Made in Japan」の称号は非常に魅力的なわけです。

 鴻海が何度断られてもシャープ(の工場)を欲しがる理由は、シャープの商号ではなく「Made in Japan」ブランドにあります。 鴻海は自社ブランドでモノを製造しているわけではありません。モノ自体に付加価値をつけるには、 製品に「Made in Japan」とどうしても書きたいのです。これが、鴻海がノドから手が出るほどシャープ(の工場)を欲しがる理由です。

 こうすると、自ずと取るべき戦略が見えてきます。日本国内にある工場を集約して、例えばサムスンにOEM供給するのです

 シャープは工場を売り払うのではなく、サムスンに対して「ギャラクシーを堺工場と亀山工場で生産して『Made in Japan』を付けましょう!」と打診するのです。 もちろんサムスンは「低品質、低価格」「中品質、中価格」が基本ですから、そのままギャラクシーに「Made in Japan」を付けて高価格にすることはないかもしれません。 しかし、サムスンはサムスンでシャープの工場を使って、高級路線に乗り出す可能性が見えてきます。

 シャープは受注生産に慣れてきたら、今度は他の日本の家電メーカーから工場を買収して、さらに「Made in Japan」の工場を増やすのです。 サムスンだけでなく、「低品質」と思われがちな中国企業、韓国企業に声をかけ、「Made in Japan」の高級路線に活路を見出せばよいのです。

 「シャープ」ではなく「Made in Japan」を供給する。これが今後の家電業界の生き残りの道なのかもしれません。