内部留保は貯金じゃない!~国会議員すら盛大に勘違い
「内部留保をなぜ使わない」「給料に回せ」とお怒りの国会議員がたくさんいます。 ですが、実は「現金ではない」ために「使えない」のが事実です。決算書のどこに書いてあるかを含め、内部留保について詳しく解説します。
この記事の要点
- 「貯めこんでいるお金」を意味する言葉ではない!
- 内部留保とは、「生涯年収」のようなもの!
- 昇給や設備投資をしても、黒字の限り増え続ける!
- 会社はあまり現金を持っていない!
- 内部留保の開放は、マイホーム没収と同じ!
目次
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内部留保とは?
内部留保とは、歴史上稼いだ黒字の累計額!
内部留保とは、歴史上今まで出してきた利益の累計額です。 これは貸借対照表の「利益剰余金」という項目の数値を指し、例えばトヨタ自動車の利益剰余金(2018年度)は19.5兆円ですから、 「トヨタ自動車には約20兆円の内部留保がある」ということができます。
※2018年度のトヨタ自動車「貸借対照表」の簡略版
上の表の「純資産の部」の「利益剰余金」がいわゆる「内部留保」に該当します。 この「約20兆円」という数字を見て、国会議員は「トヨタはお金を20兆円も貯め込んでいる!」と言うわけです。 しかし、先ほど述べた通り、これは大きな勘違いです。
使っても帳簿上は減らない
内部留保は、今持っているお金とは関係ない!
内部留保(利益剰余金)を家計に例えると、毎年増えた「資産」を足し算していったものに過ぎません。
毎年100万円を貯金すると、10年後には1000万円になっています。 もし3年目で300万円のクルマを買うと、10年後は700万円しかもっていませんよね。
ですが、貸借対照表ではクルマも「資産」として扱われます。 300万円という現金は、300万円のクルマに変わっただけで、「資産は減っていない」ことになります。 つまり10年後は、700万円のお金と300万円のクルマを足した1000万円が「利益剰余金」として扱われます。
※家計の「貸借対照表」
貸借対照表の仕組み上、「資産」から「負債」を引いた残りが「純資産」となり、 その純資産のうち資本金を除いた分が「利益剰余金」となるため、 稼いだお金を使ったかどうかに関係なく、資産が増えて負債が減っていれば利益剰余金が増える仕組みになっているのです。
さらにここで、頭金500万円と借金2500万円で、家を買ったとしましょう。 感覚的には現金200万円と借金2500万円が残るので、「資産はマイナス2300万円だ」という気がしますよね。 ですが、貸借対照表では「家」も資産に計上されます。
※家計の「貸借対照表」
現金は200万円しか残っていないどころか2500万円の借金を背負っているのに、 貸借対照表では1000万円の内部留保があることになるのです。 内部留保は「今まで貯金した累計額」であり、「今持っているお金の額」とは関係がないのです。
会社の「内部留保」でもこれと同じことが起きています。
資産の出所を示しているだけ
資産を利益で買ったと示しているだけ!
そもそも「貸借対照表」とはなんだという話をします。
貸借対照表は、「資産」と「負債+純資産」がイコールになるように作られている表です。 先ほどは「資産から負債を引いた残りが純資産だ」という説明をしましたが、別の見方もできます。
それは「負債と純資産は、資産の出所を表している」という見方です。
※家計の「貸借対照表」
この表では、資産は「現金200万円」「クルマ300万円」「家3000万円」です。 この資産はどこから出てきたのかというと、「借金2500万円」と「今まで貯金してきた1000万円」ですよね。
貸借対照表は、「資産を『借金』と『利益』のどちらで買ったのか」ということを、 株主に説明するための資料であり、内部留保は「借金をせずに資産を増やした」という「資産の出所」に過ぎないのです。
つまり内部留保は「会社が貯め込んでいるお金」ではないのです。
じゃあ「会社が貯め込んでいるお金」はどこ?
貯めこんでいるお金は、実は別の項目にある!
「利益剰余金」が「内部留保」と呼ばれていますが、内部留保は「今貯め込んでいるお金」ではないことを説明してきました。 それでは、「会社が貯め込んでいるお金」はいったい何なのでしょうか。
「会社が貯め込んでいるお金」も貸借対照表に表れています。 それは、「現金及び現金同等物」という項目です。
※2018年度のトヨタ自動車「貸借対照表」の資産の部
この表によれば、トヨタ自動車の「現金及び現金同等物」は3兆円です。 これは「現金」「銀行預金」「小切手」など即座に現金として使えるものの合計額ですが、 これが「会社が今持っているお金」です。
しかし、「貯め込んでいる」とは言っても、「今持っているお金」にもちゃんと使い道があります。
家計で例えれば、家賃やクレジットカードの支払いが20万円あれば、 銀行口座に最低20万円は置いておかなければなりませんよね。 会社もこれと同じで、「取っておかなければならないお金」があります。
例えば来月の給料の支払い、下請け企業への支払い、銀行への借金の返済、 これから払う税金・・・ これら「1年以内に払わなければならないお金」を「流動負債」と言います。
「現金及び現金同等物」から「流動負債」を全額支払ってなお、余るお金こそが「『本当の』会社が貯め込んでいるお金」です。
会社はお金を貯め込んでいない
現金を余らせている会社は、ほとんどない!
さて、トヨタ自動車は3兆円の現金を持っていますが、支払いを控えている「取っておかなければならないお金」はどれくらいあるでしょうか。 これは貸借対照表の「負債の部」の「流動負債」の額が、それにあたります。
※2018年度のトヨタ自動車「貸借対照表」の負債の部
この表によれば、トヨタ自動車はなんと17兆円もの支払いを控えているのに、3兆円しか現金を持っていません。 ぜんぜん足りていませんよね。この流動負債は、来月の売り上げ、再来月の売り上げを当てにして支払うしかありません。 トヨタ自動車はまったくお金を貯め込んでいないのです。
実は、「来月の借金を来月の売り上げで支払う」という自転車操業のようなことは、 トヨタに限らずどんな会社でも行われています。
というのも、ビジネスでは「お金」はお金を生み出す装置であり、特に上場企業では株主のために、 どんどん資産を増やしていかなければなりません。「現金のままおいておく」だけではお金はまったく増えません。 そのため、材料や工場設備、土地、建物など、「お金」は「もうかるもの」に換え続けなければならないのです。
もし「お金」が少しでも残っていたら、すべて「もうかるもの」に買い替える。 これを極限まで突き進めるのが企業の責務であり、支払いがショートしないようにギリギリのラインを上手に見極めるのが経理部の仕事です。
むしろ「本当に」お金を貯め込んでいる会社があれば、株主が許さないでしょう。 「余ってるお金を使えばもっと儲かるのになぜ貯め込んでいるんだ!」と。
「給料」とも関係がない
給料を増やしても、来年も黒字なら内部留保は増え続ける!
「内部留保を給料に回さない残念企業」といった批判がありますが、これも盛大な勘違いです。 というのも、内部留保と給料は関係がないからです。
社員の昇給は決算を締めたあとの4月に行われますが、この決算の結果によって昇給額を決めます。 つまり、昇給は「儲かった年」ではなく、「儲かった次の年」に行われるのです。
ボーナスも同じで、夏のボーナスは前年度の下期の業績に応じて支払われ、 冬のボーナスだけが今年度の業績(上期)に応じて支払われます。 つまり、今年儲かったからといって、「今年」増える出費は冬のボーナスだけで、昇給や夏のボーナスは来年度の話なのです。
内部留保は「歴史上今まで出してきた利益の累計額」であり、「稼いだお金を使ったかどうかには関係ない」と解説してきました。 仮に昇給やボーナスの増額をしても、翌年もっと儲かれば内部留保はさらに増えます。 赤字にならない限り、いくら給料を支払っても内部留保は「累計額」なので増え続けるものなのです。
つまり、「内部留保が増えたから給料は増えていない」というのは盛大な勘違いで、 そもそも内部留保を見ても給料とは関係がないため、給料が変わったかどうかはわからないのです。
会社が給料を増やしているかどうかというのは、実は貸借対照表や損益計算書を見てもわかりません。 会社には人件費の移り変わりを開示する義務がなく、むしろプライバシーの問題にもなりますので「平均年収」しか公表しません。
そもそもわからないものを、「内部留保」というそれっぽい項目に無理やりこじつけて難癖をつけているだけで、 内部留保を給料に使ったかどうかは、会社の経理部以外にはわかりません。
「設備投資」とも関係がない
いくら設備投資をしても、内部留保は1円も減らない!
国会議員やマスコミの中には「内部留保を設備投資に回せ!」といかにもカッコいいことを言っている人たちがいます。 しかし残念ながらこれも盛大な勘違いです。
先ほども解説した通り、設備投資や研究開発はそもそも企業の責務として行っていることです。 「稼いだお金」を翌年度、設備投資や研究開発に回しても、「稼いだお金の累計額」である「内部留保」は減りません。
前掲の「家計の貸借対照表」でいう「家」を買っても「内部留保」が減らなかったのと同じことです。 「稼いだお金」を何に使っても「内部留保」とは関係がないのです。
「内部留保」は国会議員の恥ずかしい勘違い
内部留保の開放は、マイホーム没収と同じ!
国会議員が「内部留保」と呼ぶ「利益剰余金」は、「会社が貯め込んでいるお金」ではなく、 「『借金ではない資産』をお金で評価したもの」です。
「内部留保に課税する」というのは、「30年間100万円ずつ貯金してマイホームを買った人」に、 「3000万円に課税する!」と言っているのと同じです。 「内部留保を解放させる」というのは、「せっかく買ったマイホームを奪う」のと同じです。
こんなトンデモナイ話があるでしょうか?
しかし実際、立憲民主党をはじめ、野党議員はこんなメチャクチャなことを国会で堂々と言ってのけるわけです。 こんな「極悪非道の資産の没収」がしたいわけではなく、たぶん「盛大な勘違い」をしているだけでしょう。
経済を語るなら、貸借対照表くらい読めてほしいですね…
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著者:村田 泰基(むらた やすき)
合同会社レセンザ代表社員。1989年生まれ。大阪大学法学部卒。2013卒として就活をし、某上場企業(メーカー事務系総合職)に入社。
その後ビジネスの面白さに目覚め、2019年に法人設立。会社経営者としての経験や建設業経理士2級の知識、自身の失敗経験、300冊以上のビジネス書・日経ビジネスを元に、11年間に渡り学生の就職活動を支援している。
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